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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)1793号 判決

原告 A野花子

〈他7名〉

右八名訴訟代理人弁護士 栄枝明典

同 樋渡俊一

被告 D川梅夫

〈他2名〉

右三名訴訟代理人弁護士 宮田隆男

主文

一  被告らは、原告A野花子に対し、連帯して一七五万八二九七円及びこれに対する平成四年五月七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告B山松子に対し、連帯して八〇六万〇九三八円及びこれに対する平成四年三月三一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

三  被告D川梅夫は、原告C川竹子に対し、三九〇万円及びこれに対する平成二年七月二五日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

四  原告D原太郎に対し、

1  被告D川梅夫は、六四四万八八〇八円及びうち五〇〇万円に対する昭和六一年七月三日から、うち一四四万八八〇八円に対する平成四年八月一七日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告D川夏子及び同E原秋子は、連帯して一四四万八八〇八円及びこれに対する平成四年八月一七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員(1の被告D川松夫の支払義務と連帯)を支払え。

五  原告E田梅子に対し、

1  被告D川梅夫は、九〇九万四〇〇〇円及びうち一二九万二〇〇〇円に対する昭和五九年一〇月二九日から、うち五一七万円に対する平成四年八月二七日から、うち二六三万二〇〇〇円に対する平成四年一〇月三一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告D川夏子は、二一三万二〇〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月三一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員(1の被告D川梅夫の支払義務と連帯)を支払え。

3  被告E原秋子は、五八〇万二〇〇〇円及びうち三四七万円に対する平成四年八月二七日から、うち二三三万二〇〇〇円に対する平成四年一〇月三一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員(1の被告D川梅夫の支払義務と連帯)を支払え。

六  原告A田春子に対し、

1  被告D川梅夫は、五九七万四七九八円及びうち一四二万円に対する昭和六〇年三月二五日から、うち二〇八万五〇〇〇円に対する平成四年八月三一日から、うち二四六万九七九八円に対する平成四年一〇月二一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告D川夏子は、四五五万四七九八円及びうち二〇八万五〇〇〇円に対する平成四年八月三一日から、うち二四六万九七九八円に対する平成四年一〇月二一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員(1の被告D川梅夫の支払義務と連帯)を支払え。

3  被告E原秋子は、二一六万九七九八円及びこれに対する平成四年一〇月二一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員(1の被告D川梅夫の支払義務と連帯)を支払え。

七  被告D川梅夫は、原告B野松夫に対し、三〇二二万七一六八円及びうち一八三万七一六八円に対する昭和六三年一二月二八日から、うち一八〇〇万円に対する平成元年四月二七日から、うち一〇三九万円に対する平成四年三月二〇日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

八  被告D川梅夫は、原告C山竹夫に対し、一二五八万六九一〇円及びうち一六五万三四〇七円に対する昭和五七年二月九日から、うち八四三万一三四七円に対する平成元年一二月一四日から、うち二五〇万二一五六円に対する平成四年八月一七日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

九  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

一〇  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告A野花子(以下「原告A野」という。)に対し、

1  (主位的請求)

被告らは、連帯して二〇二万三〇三七円及びこれに対する平成四年五月七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  (予備的請求)

被告D川は、一八七万三〇三七円及びこれに対する平成四年五月八日から支払済みまで年一七パーセントの割合による金員を支払え。

(原告らの平成九年九月一六日付け訴えの変更申立書に「被告ら」とあるのは、「被告D川」の誤記と認める。)

二  被告らは、原告B山松子(以下「原告B山」という。)に対し、連帯して八八五万円及びこれに対する平成四年三月三一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告C川竹子(以下「原告C川」という。)に対し、連帯して五四〇万円及びこれに対する平成二年七月二五日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

四  被告らは、原告D原太郎(以下「原告D原」という。)に対し、連帯して九四九万一三八九円及びうち五〇〇万円に対する昭和六一年七月三日から、うち四四九万一三八九円に対する平成四年八月一七日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

五  原告E田梅子(以下「原告E田」という。)に対し、

1  (主位的請求)

被告らは、連帯して一一四七万三七二〇円及びうち一二九万二〇〇〇円に対する昭和五九年一〇月二九日から、うち五一七万円に対する平成四年八月二七日から、うち五〇一万一七二〇円に対する平成四年一〇月三一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  (予備的請求)

被告D川梅夫(以下「被告D川」という。)は、一二九万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年一〇月三〇日から支払済みまで年一〇パーセントの割合による金員を支払え。

六  原告A田春子(以下「原告A田」という。)に対し、

1  (主位的請求)

被告らは、連帯して六三九万九七九八円及びうち一四二万円に対する昭和六〇年三月二五日から、うち二一一万円に対する平成四年八月三一日から、うち二八六万九七九八円に対する平成四年一〇月二一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  (予備的請求)

被告D川は、三五三万円及びうち一四二万円に対する昭和六〇年三月二五日から支払済みまで年一〇パーセントによる、うち二一一万円に対する平成四年九月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による、各金員を支払え。

七  原告B野松夫(以下「原告B野」という。)に対し、

1  (主位的請求)

被告らは、連帯して三一二二万七一六八円及びうち一八〇〇万円に対する平成元年四月二七日から、うち一八三万七一六八円に対する昭和六三年一二月二八日から、うち一〇三九万円に対する平成四年三月二〇日から、うち一〇〇万円に対する平成四年八月三一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  (予備的請求)

被告D川は、四〇六〇万円及びうち一八〇〇万円に対する平成二年一二月二一日から支払済みまで年一五パーセントの割合による、うち四六〇万円に対する平成四年三月二五日から支払済みまで年一二パーセントによる、うち一八〇〇万円に対する平成四年一月一日から支払済みまで年一五パーセントの割合による、各金員を支払え。

八  原告C山竹夫(以下「原告C山」という。)に対し、

1  (主位的請求)

被告D川は、一三三八万六九一〇円及びうち一六五万三四〇七円に対する昭和五七年二月九日から、うち八四三万一三四七円に対する平成元年一二月一四日から、うち三三〇万二一五六円に対する平成四年八月一七日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  (予備的請求)

被告D川は、一〇〇八万四七五四円及びうち一六五万三四〇七円に対する平成四年八月一八日から、うち八四三万一三四七円に対する平成元年一二月一四日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

九  仮執行の宣言

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、幼児向け英会話教材の販売と英語教室の運営を行っていた株式会社B原(以下「B原」という。)において営業等の業務に従事するなどしていた原告らが、同社の代表取締役であった被告D川、同社の取締役であった被告D川(旧姓A川)夏子(以下「被告A川」という。)及び同社において経理を担当していた被告E原秋子(以下「被告E原」という。)は、真実は返済をする意思もないのに、社内預金、借入金又は出資金等の名目により原告らから金員の交付を受け、また、真実は給与を支払う意思もないのに、一部の原告らを働かせ、結局同社を倒産させて原告らに損害を与えたとして、被告らに対し、主位的に、民法七〇九条、七一九条ないし商法二六六条の三に基づく損害賠償の支払並びに、被告D川に対し、予備的に、金員交付についての契約上の債務の履行を求めた事案である。

二  基礎となる事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがなく、証拠の掲記のある事実は主にその証拠により認定した事実である。)

1  当事者

(一) 被告D川は、幼児向け英会話教材の販売と英語教室の運営を行っていたB原の代表取締役であった者である。なお、被告D川は、平成一一年七月一三日、横浜地方裁判所において、原告B山、B原の従業員であったC田冬子及びD野一子に対する詐欺罪により懲役四年の実刑に処する旨の判決を受け、同判決は確定した。

(二) 被告A川は、B原の取締役に就任していた者である。

(三) 被告E原は、B原の経理を担当していた者である。

(四) 原告B野は、被告D川の叔父であり、被告D川に依頼されてB原の取締役に就任していた者であり、その他の原告らは同社の営業担当者として稼働していた者である。

(五) B原は、平成五年一月一一日、横浜地方裁判所において、破産宣告決定を受けた。

2  原告らの被告D川に対する金員の交付

(一) 原告A野(社内預金名目一八七万三〇三七円)

原告A野は、被告D川に、平成四年四月二七日に一〇七万三〇三七円を、同年五月七日に八〇万円を、B原に対する社内預金名目で交付した。

(二) 原告B山(社内預金名目八三五万円)

原告B山は、被告D川に、次のとおり合計八三五万円を、B原に対する社内預金名目で交付した。

(1) 平成四年二月二五日 四五万円

(2) 同月二六日 四五万円

(3) 同年三月三日 一〇五万円

(4) 同月四日 一一〇万円

(5) 同月一一日 二〇〇万円

(6) 同日 三〇万円

(7) 同月二四日 一〇〇万円

(8) 同月三一日 二〇〇万円

(三) 原告C川(社内預金名目三九〇万円)

原告C川は、平成二年七月二五日、被告D川に四五〇万円を、B原に対する社内預金名目で交付した。被告D川は、その後、次のとおり、合計六〇万円を右交付金に対する利息名目又は右交付金に対する返済として原告C川に交付した。

(1) 平成三年三月二〇日 三〇万円

(2) 同四年二月六日 二〇万円

(3) 同五年一月二五日 五万円

(4) 同年二月一日 五万円

(四) 原告D原(社内預金又は増資名目五〇〇万円)

原告D原は、被告D川に、昭和六一年六月六日に三〇〇万円を、同年七月三日に二〇〇万円を、B原に対する社内預金又は増資名目で交付した。

(五) 原告E田(預託金名目一二九万二四三二円及び貸金名目五一七万円)

原告E田(旧姓E山)は、昭和五九年一〇月二九日に一二九万二四三二円を被告D川に預けた。

また、原告E田は、次のとおり、合計五一七万円を、貸金として被告D川に交付した。

(1) 平成二年一一月七日 二二〇万円

(2) 同月二六日 二万円

(3) 同月二七日 一万円

(4) 同年一二月四日 三万円

(5) 平成四年六月八日 三万八〇〇〇円

(6) 同年七月二日 五〇〇〇円

(7) 同月八日 九五万二〇〇〇円

(8) 同月一三日 一一万円

(9) 同月一四日 一〇万円

(10) 同月一六日 五〇〇〇円

(11) 同年八月二四日 一三〇万円

(12) 同月二五日 一〇万円

(13) 同月二七日 三〇万円

(六) 原告A田(預託金名目一四二万円及び貸金名目二一一万円)

原告A田(旧姓A山)は、昭和六〇年三月二五日に一四二万円を被告D川に預けた。

また、原告A田は、次のとおり、合計二〇八万五〇〇〇円を貸金として被告D川に交付した。

(1) 平成四年八月二八日 一二〇万円

(2) 同月二八日 二九万円

(3) 同月二九日 一万五〇〇〇円

(4) 同月三一日 五八万円

(七) 原告B野(預託金名目一八〇〇万円、ミニスクール出資金名目一八三万七一六八円及びゴルフ場改修資金名目一〇三九万円)

(1) 預託金

原告B野は、平成元年四月一四日に一三五〇万円を、同月二七日に五五〇万円を、被告D川に預託金として交付した。被告D川は、その後これに対する返済として一〇〇万円を原告B野に交付した。

(2) ミニスクール出資金名目

原告B野は、昭和六三年一二月二八日に、九一〇万円並びにそれ以前の昭和六〇年二月一九日に預けていた二〇〇万円及び同年九月二日に預けていた九〇万円からの振替分の合計一二〇〇万円をミニスクール出資金名目で被告D川に交付した。被告D川は、その後これに対する元金の返済分として七四〇万円及び利息の返済分として二七六万二八三二円を原告B野に交付した。

(3) ゴルフ場改修資金名目

原告B野は、平成二年三月二〇日、一八〇〇万円を被告D川にゴルフ場改修資金名目で交付した。被告D川はその後これについての利息名目の返済として七六一万円を原告B野に交付した。

(八) 原告C山(社内預金名目一六五万三四〇七円)

被告D川は、原告C山の預金通帳を保管していたが、そのうち三九万六五九三円を除く一六五万三四〇七円を、昭和五七年二月九日ころ社内預金名目で払い戻し、返還しなかった。

三  本件の主な争点及び争点に関する当事者の主張

1  被告らの不法行為責任(一)(社内預金、預託金、貸金、ミニスクール出資金及びゴルフ場改修資金各名目の金員詐取又は横領並びに原告C山のコミッションの横領)の有無(別紙1①から⑥の請求関係)(争点1)

(一) 原告らの主張

(1) 社内預金名目の金員詐取・横領(原告A野、同B山、同C川、同D原及び同C山の別紙1①の請求関係)

イ 社内預金の制度がなく、社内預金として受け入れ、約定どおりの利息を付けて返還する意思もないのに、被告らは、共謀して、これがあるかのような虚偽の事実を原告A野、同B山、同C川、同D原及び同C山(同D原に対しては、増資として受け入れるとの説明も行っていた。)に告げ、安全かつ有利な社内預金として預け入れるものと誤信した右の原告らから、社内預金、増資又は預託金名目で、前記二2(一)から(四)及び(八)の金員を騙し取った。

ロ また、社内預金名目で預け入れをさせることは、労働基準法に違反し公序良俗に反するものであり違法性を有する。仮に被告らによる右金員の受入当時においてB原の経営状態が悪かったというのであれば、被告D川が、原告らに対し、B原の経営状態が極めて良好であると告げたこと自体が欺罔行為である。

ハ 被告らは、原告らから金員を受け入れた際に騙す意思がなかったと主張するが、仮にそうであるとしても、社内預金として受領しておきながら、受入時において社内預金としての処理をせず、自らのために費消したことは、横領に当たる。

ニ 遅延損害金は、最後に支払った日(原告A野が平成四年五月七日、原告B山が同年三月三一日、原告C川が平成二年七月二五日、原告D原が昭和六一年七月三日、原告C山が昭和五七年二月九日)以降年五パーセントの割合により請求する。なお、原告C山は、被告D川のみに請求する。

(2) 預り金名目の金員詐取(原告E田、同A田及び同B野の別紙1②の請求関係)

イ 被告らは、共謀の上、原告E田、同A田及び同B野に対し、真実は元金及び約定の利息を返済する意思がないのにこれがあるかのように装い、また原告B野に対しては、右のほか、真実にはB原に入金して運用する意思がないのにこれがあるかのような虚偽を併せて告げ、その旨誤信した右の原告らから、預り金名目で前記二2(五)前段、同(六)前段及び同(七)(1)の金員を騙し取った。

ロ 遅延損害金は、最後に支払った日(原告E田が昭和五九年一〇月二九日、原告A田が同六〇年三月二五日及び原告B野が平成元年四月二七日)以降年五パーセントの割合により請求する。

(3) 借金名目の金員詐取(原告E田及び同A田の別紙1③の請求関係)

被告らは、元金及び利息を返済する意思がないのに、共謀して、

イ 原告E田に対しては、被告D川において、「A原との契約が切れたから人件費や家賃の支払をしなければならなくなった。一二月に貸した金が必ず返ってくる。」「B川春夫(以下「B川」という。)が大阪校を独立させるために一五〇〇万円をB原に支払うことになっている。それが確実に入り必ず返済できる。」「C川二子(以下「C原」という。)マネージャーが九月七日にB原に二〇〇〇万円を支払って横浜校を独立させることが決まった。」などと告げ、その旨誤信させて、前記二2(五)後段の金員を、

ロ 原告A田に対しては、被告D川において「九月七日にはC原マネージャーから二〇〇〇万円が入る。それで必ずお金を返す。」、被告A川において「C原マネージャーの二〇〇〇万円は信頼性がある。C原は二〇〇〇万円を出して横浜校を独立させて自分がやって行きたいと行っているから心配ない。」などと虚偽の事実を告げてその旨誤信した原告A田から、前記二2(六)後段記載の金員を騙し取った。

ハ 遅延損害金は、最後に支払った日(原告E田が平成四年八月二七日及び原告A田が同月三一日)以降年五パーセントの割合により請求する。

(4) ミニスクール出資金・ゴルフ場改修資金名目の金員詐取(原告B野の別紙1⑤⑥の請求関係)

イ 被告らは、ミニスクールの開設資金・ゴルフ場改修資金に充てるつもりがなく、約定どおりの利息を付けて元本全額を返済する意思もないのに、共謀して、原告B野に対し、これらの資金に充てるなどと虚偽の事実を告げ、その旨誤信した原告B野から、前記二2(七)(2)及び(3)記載の金員を騙し取った。

ロ 遅延損害金は、ミニスクール出資金名目分については最後に支払った日(昭和六三年一二月二八日)から、ゴルフ場改修資金名目分については利息名目の金員が支払われた最後の日(平成四年三月二〇日)から、年五パーセントの割合により請求する。

(5) コミッションの横領(原告C山の別紙1④の請求関係)

イ 被告D川は、原告C山のために預金通帳を大切に保管してあげるという約束をしながら、実際には、原告C山に支払われていたコミッションを、入金と同時に直ちに引き出す方法で昭和五七年ころから平成元年ころにかけて横領した。その金額は、原告C山が、D田、E野インターナショナル及びA原からコミッションとして送金されるはずの金額から、原告C山に現実に支払われた金額を控除した金額であり、別表1の右下の合計八四三万一三四七円である。

ロ なお、別表1は、支払われるべき金額(源泉徴収票上の金額)から、原告C山に対し支払われた金額を控除したものである。別表2は、右「原告C山に支払われた金額」の内訳を示すものであり、別表3は、別表2のさらに内訳を示すものである。

ハ 遅延損害金は、最後の入金日(平成元年一二月一四日)以降年五パーセントの割合により請求する。

(二) 被告D川の主張

(1) 社内預金名目の詐欺・横領(別紙1①の請求関係)に対する反論

イ B原は、原告ら主張の標記の金員について返済の意思はあった。現にこれらの金員の一部(原告A野及び同C川関係の一部)が返済されていることについては、原告らも争わない。被告D川が「社内預金」という言葉を使ったのは、通常の利息よりも高い利息が付く例として挙げたものにすぎない。また、B原は、平成四年二月ころに新入社員を大量に採用したため、一時的に資金繰りが苦しくなったことは確かであるが(社員採用の効果が上がるのは、採用後半年してからであることが多い。)、当時は学研クレジットからの入金が月一二〇〇万円程度あり、経営状態が苦しかったわけではない。

ロ また、B原には社内預金の制度がないのであるから、社内預金について労働基準法違反及び公序良俗違反並びに社内預金としての処理をしなかったことについて横領をいう原告らの主張は、いずれも前提を欠き理由がない。

ハ 原告D原は、当時営業成績が悪くコミッション収入では生活できなかったので、B原が金銭面で同原告を援助してきた。そこで、B原が、その穴埋めとして、社内預金・増資名目の金員を受け取り使用した。また、原告D原は、当時、B田教育システムの子会社であった株式会社E野インターナショナル(以下「E野インターナショナル」という。)の社員であり、B原の「社内預金」や「増資金」の話が出る余地がない。さらに、昭和六一年には増資の事実はないので、増資名目で金員を出させられたとの原告D原の主張は前提を欠いている。

(2) 預り金名目の詐欺(別紙1②の請求関係)に対する反論

イ 被告D川は、原告E田から預かった金員に約定の利息を付けて返済するつもりであった。

ロ 原告A田は、E野インターナショナルのフルコミッションの外務員であったが、営業成績が悪く、コミッション収入が少なかったため、被告D川が生活費等を立て替えていた。原告A田の標記の金員交付は、B野がその分の埋合せのために受け取り使用したものである。

ハ 被告D川は、原告B野から預かった金員に約定の利息を付けて返済するつもりであったし、預り金をB原に入金して運用する意思があった。

(3) 借金名目の詐欺(別紙1③の請求関係)に対する反論

イ B原が原告E田及び同A田主張の標記の金員を借り受けたものであり、B原に返済の意思はあった。

ロ A原との契約が平成二年六月ころに切れたことは事実であるし、宇都宮や大阪に在住していた人から返済の予定があったこと、平成四年ころ、大阪校の独立の話やC原マネージャーから横浜校を独立させたいとの申入れがあったことも事実である。

ハ なお、被告A川が原告ら主張の事実を告げたことはない。

ニ また、平成二年一月ころからB原の英会話教室の月謝を学研クレジットで組んでおり、その入金が毎月一二〇〇万円程度あり、それに加え、現金での入学金や月謝の収入もあったので、平成四年八月ころのB原の経営状態は悪かったわけではない。

(4) ミニスクール出資金・ゴルフ場改修資金名目の詐欺(別紙1⑤⑥の請求関係)に対する反論

B原が原告B野主張の標記の金員を借り受けたものであり、B原に返済の意思はあった。

(5) コミッションの横領(別紙1④の請求関係)に対する反論

後記7(一)(4)のとおり、原告C山に返済すべきコミッションはない。

(三) 被告A川及び同E原の主張

被告A川及び同E原は、被告D川の行為に関与しておらず、共謀はない。

2  被告らの不法行為責任(二)(給与を支払う意思なく働かせた詐欺)の有無(原告D原、同E田、同A田及び同C山の別紙1⑦の請求関係)(争点2)

(一) 原告らの主張

(1) 不法行為の内容

被告らは、原告D原、同E田、同A田及び同C山を、同原告らに対し給与を支払う意思なく働かせ、未払給与分の損害を与えた。これは、詐欺として不法行為に当たる。

なお、原告C山は、被告D川のみに請求する。

(2) 原告D原の損害額

原告D原の損害額は、別表4のとおり、平成二年一〇月から平成四年八月までの未払給与合計三九二万二五八一円から労働福祉事業団が立て替え払いした額を控除した三四九万一三八九円である。

遅延損害金は、退職した日(平成四年八月一七日)から年五パーセントの割合を請求する。

(3) 原告E田の損害額

原告E田の損害額は、左記のイとロの合計額からハ及びニの額を控除した四〇一万一七二〇円である。

イ 平成二年九月から平成四年一〇月までの給与 月当たり二五万六七二〇円の二六か月分で小計六六七万四七二〇円

ロ 平成四年一一月分の給与 一二万五〇〇〇円

ハ 既に受領した金額 一九〇万八〇〇〇円

ニ 労働福祉財団が立て替え払いした金額 八八万円

遅延損害金は、退職した日(平成四年一〇月三一日)から年五パーセントの割合を請求する。

(4) 原告A田の損害額

原告A田の損害額は、別表5の右下の二七四万九七九八円(平成二年八月から平成四年一〇月分までの未払給与)から、労働福祉事業団が立て替え払いした八八万円を控除した一八六万九七九八円である。

遅延損害金は、退職した日(平成四年一〇月二一日)から年五パーセントの割合を請求する。

(5) 原告C山の損害額

原告C山の損害額は、別表6の右下の三一八万二一五六円(平成二年九月から平成四年八月分までの未払給与)から、労働福祉事業団が立て替え払いした八八万円を控除した二三〇万二一五六円である。

遅延損害金は、退職した日(平成四年八月一七日)から年五パーセントの割合を請求する。

(二) 被告らの主張

原告D原、同E田、同A田及び同C山は、フルコミッションの営業員であり、営業成績が向上しそれに応じた収入を手に入れることになっていた。B原は、他の営業員と同様に、右の原告らにコミッションを支払う意思はあった。仮に右の原告らが固定給であったとしても、雇用関係の紛争は、原則として契約関係で処理すべきである。

3  慰謝料請求の可否(原告らの別紙1⑧の請求関係)(争点3)

(一) 原告らの主張

(1) 原告らは、雇用主(代表者)であった被告D川から前記1のとおり社内預金等にすることを強く勧められ、これを信頼して預けるなどしながら、それが違法であったことを知り、しかもついにはこれらが返還されないこととなった。

(2) また、原告D原、同E田、同A田及び同C山は、給与を支払う意思のない被告らの支配下で従属的に労働させられ、厳しい窮乏生活に耐えなければならなかった。

(3) さらに、原告B野は、加害者の被告D川が実の甥であることによって精神的損害を受けた。しかも、将来の仕事と利息収入の保証があると騙されたため、自己の事業を閉鎖し、老後の生活を支えるはずの資産をまとめて失った。

(4) 以上のとおり、原告らそれぞれは、被告らの欺罔等によって精神的苦痛を被ったので、財産的損害賠償請求権のほかに慰謝料請求権を有する。その金額及び遅延損害金の起算日は、原告A野が一五万円及び社内預金名目の金員を最後に預けた日(平成四年五月七日)、原告B山が五〇万円及び社内預金名目の金員を最後に支払った日(平成四年三月三一日)、原告C川が一五〇万円及び社内預金名目の金員を支払った日(平成二年七月二五日)並びにその余の原告らが各一〇〇万円及び退職の日(原告D原が平成四年八月一七日、原告E田が同年一〇月三一日、原告A田が同月二一日、原告B野が同年八月三一日及び原告C山が同月一七日)である。なお、遅延損害金の率は、年五パーセントであり、原告C山は、被告D川のみに請求する。

(二) 被告らの主張

原告らの主張は争う。

4  被告D川及び同A川の商法二六六条の三の責任の有無(原告A野、同B山、同C川、同D原の別紙1⑨の請求関係)(争点4)

(一) 原告らの主張

仮に被告らが原告らに対して社内預金名目で金員を詐取したとの請求が認められないとしても、左記のとおり、被告D川及び同A川は、B原の取締役として、職務を行うに際し原告らに違法に加えた損害について責任を負うべきである。

(1) 労働基準法違反の社内預金

被告D川及び同A川は、B原の取締役として、原告らから社内預金を受け入れるに当たっては、その返還請求権を確実に保全するため労働基準法等の法令を遵守しなければならなかったのに、これを遵守することなく、従業員である原告らに対し積極的な勧誘を行い、社内預金をさせた。これは重大な労働基準法違反であり、違法な職務行為である。また、右の被告らは、原告らの権利を全く顧慮しない態度が顕著であり、悪意又は重過失がある。

(2) 会社財産の費消

被告D川及び同A川は、B原の取締役として、社内預金を受け入れた際に入金処理すべきであるのにこれを怠り、又はいったんは入金処理をしながら直ちに引き出し私的目的で費消した。これは取締役の横領又は背任行為である。しかも、右の被告らは原告らに返還する意思がなく、原告らの利益を全く顧慮しない態度が顕著であり、悪意又は重過失がある。

(3) 欺罔による社内預金の受入れ

被告D川及び同A川が、前記のとおりの虚偽の事実を告げて社内預金として金員を受け入れること自体が、取締役の職務違反に当たる。

(二) 被告らの主張

社内預金の制度のあることを前提とする原告らの主張は前提を欠いている。また、被告D川がB原のために原告らから金員を借り入れることは職務違反とはいえない。なお、原告D原は、昭和六一年当時は社員でなかったから、同原告に対し「社内預金」を勧めるはずがない。

被告A川は、右借入れに関与していないから、責任を負う理由はない。

5  被告D川の契約責任の有無(別紙1⑩⑪⑫の予備的請求関係)(争点5)

(一) 原告らの主張

仮に原告らの不法行為を理由とする損害賠償請求及び取締役としての賠償請求が認められないとしても、次のとおり、被告D川は、契約責任を負うべきである。

(1) 重畳的債務引受等の契約責任(原告A野の別紙1⑩の請求関係)

被告D川は、平成四年八月二一日、原告A野に対し、前記1(一)(1)のB野の社内預金返還債務について、年一七パーセントの利息を付ける約定で、重畳的に債務を引き受け又は保証する旨を約した(甲A六)。遅延損害金は、最後に預けた日の翌日(平成四年五月八日)から約定の年一七パーセントの割合による請求をする。

なお、(1)から(3)の債権について、各原告が、B原に対する債権届けをしているが、被告D川は、B原に対する右債権につき、保証債務又は連帯債務を負うものである。

(2) 預託金契約(原告E田、同A田及び同C山の別紙1⑪の請求関係)

イ 原告E田関係

被告D川は、昭和五九年一〇月二九日、原告E田との間で、同日以降年一〇パーセントの利息を付ける旨の約定で、一二九万二四三二円(請求に当たっては、四三二円を切り捨てる。)を預かる旨の契約を締結した。遅延損害金は、預けた日の翌日(昭和五九年一〇月三〇日)から約定の年一〇パーセントの割合による請求をする。

ロ 原告A田関係

被告D川は、昭和六〇年三月二五日、原告A田との間で、原告A田との雇用関係が継続している間、年二〇パーセントの利息を付けて、一四二万円を預かる旨の契約をした。遅延損害金は、預けた日(昭和六〇年三月二五日)から利息制限法内の約定の年一〇パーセントの割合による請求をする。

ハ 原告C山関係

被告D川は、原告C山との間で、第一勧業銀行横浜西口支店の口座にあった一六五万三四〇七円及び預けていたコミッション八四三万一三四七円についての預り金契約を締結した。遅延損害金は、一六五万三四〇七円の預り金契約の分が退職日の翌日(平成四年八月一八日)から、八四三万一三四七円の預り金契約の分が最後の入金日(平成元年一二月一四日)から年五パーセントの割合による請求をする。

(3) 貸金契約(原告A田及び同B野の別紙1⑫の請求関係)

イ 原告A田関係

原告A田は、前記二2(六)後段のとおり、平成四年八月三一日までに、被告D川に対し、合計二〇八万五〇〇〇円を貸し付けた。遅延損害金は、最後に支払った日の翌日から年五パーセントの割合による請求をする。

ロ 原告B野関係

原告B野は、被告D川に対し、次のとおりの金銭消費貸借契約に基づく貸金債権を有する。

① 貸金イ

原告B野は、前記二2(七)(1)のとおり、被告D川に対し預託金名目で金員を貸し付けたので、残元金一八〇〇万円の貸金債権を有する(本来は一九〇〇万円についての貸付けであるが、利息制限法を考慮し、平成二年一二月二〇日に受領した利息一〇〇万円を元本に充当した。)。

遅延損害金は、年二〇パーセントの約定であったが、利息制限法を考慮し、利息の支払を受けた日の翌日に当たる平成二年一二月二一日から年一五パーセントとする。

② 貸金ロ

原告B野は、前記二2(七)(2)のとおり、ミニスクール出資金名目で被告D川に対し一二〇〇万円を貸し付けたので、残元金四六〇万円の貸金債権を有する(残元金の額は、被告D川によって元金として支払われた七四〇万円を差し引いた金額である。)。

遅延損害金は、月一パーセントの約定であったので、最後に利息の支払を受けた日の翌日に当たる平成四年三月二五日から年一二パーセントとする。

③ 貸金ハ

原告B野は、前記二2(七)(3)のとおり、ゴルフ場改修資金名目で被告D川に対し一八〇〇万円を貸し付けたので、残元金一八〇〇万円の貸金債権を有する。

遅延損害金は、年二八パーセントの約定であったが、利息制限法を考慮し、最後に利息の支払を受けた日の翌日に当たる平成四年一月一日から年一五パーセントとする。

(二) 被告D川の主張

(1) 重畳的債務引受等の契約(別紙1⑩の請求関係)に対する反論

甲A六には、被告D川の肩書きとして、「E野グループ代表」と記載されており、これによる債務はB原に帰属する。被告D川個人が原告A野主張の契約をしたものではない。

(2) 預託金契約(別紙1⑪の請求関係)に対する反論

原告E田及び同A田の主張する預託金契約は、B原がその債務を引き受けている。右の原告らも、乙一九・二〇のとおり、B原への債権届けに右預託金債権を記載している。

(3) 貸金契約(別紙1⑫の請求関係)に対する反論

原告A田及び同B野の主張する貸金契約は、B原との間で締結されたものである。右の原告らも、乙二〇・二一のとおり、B原への債権届けに右貸金債権を記載している。

6  抗弁(一)―不法行為に基づく請求に対する消滅時効の抗弁(争点6)

(一) 被告らの主張

不法行為に基づく左記の請求は、次のとおり時効により消滅しているので、これを援用する。

(1) 原告D原の別紙1①の請求権に対し

標記の請求権は、昭和六一年七月三日から三年が経過したことにより消滅した。

(2) 原告E田関係

原告E田の別紙1②の請求権は、昭和五九年一〇月二九日から三年が経過したことにより、同③の請求権のうち平成二年一一月から同年一二月四日にかけてのものは右の期間内から三年が経過したことにより消滅した。

(3) 原告A田の別紙1②の請求権に対し

標記の請求権は、昭和六〇年三月ころから三年が経過したことにより消滅した。

(4) 原告B野関係

別紙1②の請求権は平成元年四月から、同⑤の請求権は昭和六三年一二月二八日から、同⑥の請求権は平成二年三月二〇日から三年が経過したことにより消滅した。

(5) 原告C山関係

別紙1①の請求権は昭和五七年二月九日ころから、同④の請求権は原告C山が主張する不法行為の時期である昭和五七年ころから平成元年一二月一四日までの時点から三年が経過したことにより消滅した。

(二) 原告らの主張

不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間の起算点は、「被害者又ハ其法定代理人カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」(民法七二四条)とされているが、本件で原告らが不法行為の被害を受けたことを知ったのは、B原が倒産した後であるから、被告らの抗弁(一)で取り上げられた請求権は、時効により消滅していない。被告らの主張によれば、原告らは被告らに金員を取られた時点で既に騙されていたことを知っていたことになるが、これは、原告らを騙していないとの本訴における被告らの主張と矛盾している。また、騙されたことを知りながら、騙した者の下で働き続ける者はいないはずである。

7  抗弁(二)―清算・補填・返済不要の合意の成否(争点7)

(一) 被告らの主張

(1) 原告E田の契約上の請求(別紙1⑪の請求関係)に対し

被告D川は、平成四年九月ころ、原告E田との間で、B原京都校を原告E田らに譲渡する際に、被告D川の預り金返還債務についても清算する旨の合意をした。

(2) 原告A田の契約上の請求(別紙1⑪⑫の請求関係)に対し

被告D川は、昭和五九年ころ、原告A田との間で、原告A田が被告D川の下で外務員として働いている間、コミッション収入では生活費等に不足するような場合には、被告D川がこれを補填し、右補填分については原告A田の得るコミッション収入や同原告の工面する金員で返済していく旨の合意をした。原告A田のコミッション収入は、昭和五九年には六六万三九八〇円、同六〇年には一五三万二九〇〇円しかない。このように原告A田のコミッション収入は少額であり、これでは生活できなかったことが明らかである。右のような事情は昭和六一年以降も同じであった。

よって、被告D川が原告A田に返還すべき金員は存在しない。

(3) 原告B野の契約上の請求(別紙1⑫の請求関係)に対し

被告D川は、原告B野がB原の取締役に就任するに当たって、原告B野から借り入れる金員(その後の借入れに係るものを含む。)については、B原が存続する限り、貸金の返済又は給与名目で返済していくとの合意をした。原告B野が非常勤でありながら高額の給与を支払い、その妻であるB野三子は社員又は役員でないにもかかわらず同人に給与を支払っていたのはそのためであった。しかし、B原が破産宣告を受け、右の合意のうち、B原の存続という条件がなくなったのであるから、被告D川は返済する必要がなくなった。

(4) 原告C山の契約上の請求(別紙1⑪の請求関係)に対し

イ 被告D川は、昭和五七年ころ、原告C山との間で、原告C山が被告D川の下で外務員として働いている間、コミッション収入では生活費等に不足するような場合には、被告D川がこれを補填し、右補填分については原告C山の得るコミッション収入や同原告の工面する金員で返済していく旨の合意をした。原告C山が受領したと自認する金額は二〇四〇万一〇六五円であるが、コミッション収入は一七三三万四六五四円しかない。

よって、被告D川の返還すべき金員は存在しない。

ロ 被告D川は、平成元年一二月一八日、原告C山との間で、標記の預託金を清算する旨の合意をした。

(二) 原告らの主張

被告らの抗弁(2)及び(4)イ(原告A田及び同C山の請求関係)は、要するに相殺の抗弁であるが、このように賃金債権を相殺する旨の合意は存在しない。また、原告A田及び同C山について、被告らには相殺の対象となる反対債権はない(なお、被告らは、原告C山が、二〇四〇万一〇六五円の受領を自認していると主張するが、右金額は、原告C山が本訴にいて請求していない昭和六〇年の受領金額まで加算したものである。)。仮に右のような合意があったとしても、そのような合意は労働基準法一七条及び二四条に違反し、無効である。

被告らの抗弁(1)(原告E田の請求関係)、同(3)(原告B野の請求関係)及び同(4)ロ(原告C山の請求関係)記載の合意は存在しない。

8  抗弁(三)―弁済(争点8)

(一) 被告らの主張

原告B野に対する次の債務につき、次のとおり弁済している。

(1) 別紙1⑫の請求関係―貸金イ

被告D川は、平成元年四月二七日に一〇〇万円、平成二年一二月二五日に一〇〇万円を利息として返済した。

(2) 別紙1⑫の請求関係―貸金ロ

被告D川は、合計一〇六七万八二一九円を元利金として返済した。

(3) 別紙1⑫の請求関係―貸金ハ

被告D川は、合計七六一万円を利息として返済した。

(二) 原告B野の主張

(1) 右(一)の主張について

平成二年一二月二五日に一〇〇万円を受領したことは認める。

しかし、平成元年四月二七日の授受は、最初に一〇〇万円を利息として控除していたから、一九〇〇万円を元本とするならば、右一〇〇万円の受領はしていないことになる。原告B野の請求は、一九〇〇万円を元本とするものであるが、二〇〇〇万円を元本とするのであれば、一〇〇万円の受領はこれに対する弁済ということになる。

(2) 右(2)の主張について

平成二年一二月分の一一万五三六〇円、同三年二月分の二〇万円、同年三月分の二〇万円は受領していない。受領した金員のうち、七四〇万円は元本に充当し、その余は利息に充当した。

(3) 右(3)の主張について

認める。

第三争点に対する判断

一  社内預金、預託金、貸金、ミニスクール出資金及びゴルフ場改修資金名目で金員を交付させた点並びにコミッションを横領した点の責任の有無

1  問題の所在及び検討の手順

原告らの請求は大別して交付等した金員の回復請求とただ働きをさせられたことによる損害の賠償請求とであるので、一で前者を扱い、後記二で後者を扱う。

そこで、前者を検討するが、まず、原告らが金員を交付するに至った経緯につき、下記2において原告らに共通の事情について、下記3以下において各原告個別の事情について検討を行う。そして、被告ら個別の責任の有無は各原告毎の請求を検討する中で、併せて判断することとする。

2  B原設立の経緯等

基礎となる事実並びに《証拠省略》によれば、次の事実が認められる(このほか、認定のため用いた主な証拠を、適宜掲記することがある。以下同じ。)。

(一) B原の設立に至るまでの経緯

被告D川は、昭和四九年、日本D田に入社した。同被告は、フルコミッション、すなわち固定給がなく売上手数料のみが給与となる制度の下で、幼児を対象とする英語語学教材を販売する業務に就き、これによって語学教材の販売組織及びセールス方法を学んだ。被告A川は昭和五一年に、原告D原及び被告E原は同五五年に、原告C山は同五七年に、それぞれ日本D田に同様の外務員として入社し、被告D川の部下となった。

被告D川は、昭和五八年一〇月、C野グループに属するB田教育システムが一〇〇パーセント出資し、英会話教材の販売事業を営んでいたE野インターナショナルに、被告A川、同E原、原告D原、同C山とともに移籍した。

昭和五九年、原告E田及び同A田が、E野インターナショナルにフルコミッションの外務員として入社した。

(二) B原の設立

被告D川は、昭和六〇年四月一一日、B原を横浜に設立し、被告D川が代表取締役、被告A川及び原告B野(被告D川の実の叔父に当たる。)が取締役に就任した。B原は、E野インターナショナルの教材購入者に対し英語教室などを開きアフターケア・アフターサービスを行う会社であった。昭和六一年一〇月にB田教育システムが倒産したので、B原は、その後は、E野インターナショナルとの関係を離れ、昭和六二年四月にA原という会社と提携し幼児向け英会話教材の販売と英語教室の運営を開始した。ところが、B原は、A原との取引関係がこじれたことから、平成元年ころからは、英会話学校の運営を主力とする会社となり、併せて「まなぶくん」という学習研究社の家庭学習教材の販売に力を注ぐこととなった。英会話学校は、横浜に続き京都に設け、平成二年には、名古屋、大阪にも開校するに至った。また、横浜地区では、磯子、湘南台、星川、上永谷、本郷台にミニスクールという呼び名の英語教室を開設した。

(三) D山システムの設立

被告D川は、平成元年八月に株式会社D山システム(以下「D山システム」という。)という会社を設立した。これは、B原が(二)のとおり「まなぶくん」という学習研究社の教材を販売したかったところ、B原とA原との取引関係が専任契約であり、B原として右の販売をすることが困難であったので、それを回避するために、設立したものであった。そのため、被告D川はD山システムの代表取締役等に名前を連ねていなかった。

(四) B原の経営の実態

(1) ワンマン経営

被告D川は、B原の代表取締役社長として、取締役会も開くことなく、ワンマン経営を行っていた。会議を行っても、被告D川以外に発言するのは原告B野か、あるいはB原において好成績を収め被告D川に一目を置かれていたC原ぐらいであった。

(2) 公私の混同

被告D川は、自分の金員とB原の金員とを明確に区別はしておらず、自分の個人的な出費をB原の金員で賄うこともあった。

B原の経理は、昭和六一年一月ころからは、簿記一級の資格を持っていた被告E原が担当するようになっていた(昭和六二年ころ、前任のE川が結婚で退職するまでは、E川と被告E原が分担して担当していた。)。被告E原は、B原とそれ以外のものに係る金銭の出納を別々の現金出納簿に記載していたが、平成二年一〇月一七日以降は、被告D川個人の入出金とB原の入出金とを一つの現金出納帳に渾然と記載することになった。すなわち、B原の現金出納帳には、例えば、被告D川の個人的な支出(長男の大学の入学金や生活費、次男の教科書代、たばこ代等)、別会社であるD山システムの入出金までが記載されていた。

そして、現金出納帳は複数存在し、そのうちには、B原の決算書の作成のために、B原の入出金のみをまとめた別の帳簿を作成していた。また、B原の平成三年度の総勘定元帳が紛失している。

(3) 入金の受入口

B原への入金は、すべて現実に被告E原に交付されるとは限らず、それらが銀行の預金口座に入金されることもなかった。また、B原、被告D川個人及びD山システムの各金員が、区別されることなく処理されていた。その結果、それらの金員は、被告E原と同D川のところに各一個置かれていた金庫に、いずれに保管するかについての基準もなく保管されていた。

(4) 従業員の閉鎖的管理

被告D川は、本部長の肩書を持つ被告A川と協力して従業員の管理を徹底し、従業員がお互いに話をすることを禁じ、従業員に些末なことまで報告書に記載して報告するよう命じていた。そして、従業員に対して他の従業員の中傷を吹き込むことによって、従業員同士の不信を煽り、被告D川及び同A川への依存心を高めていた。被告D川は、平成四年ころには従業員を行動費名目の低い賃金で働かせるようにした。

(5) 被告D川の給与・生活

被告D川の役員報酬は、決算報告書上、年間で八四〇万円とされていたが、実際にこれしか支払われないということはなく、B原に売上げがあった場合にその一〇パーセントを機械的に被告D川が取得するという処理がされていたこともあった。また、会社の金を私用した場合に被告D川の給与からこれが控除されるということもなかった。被告D川は、自らは、一貫して派手な生活を送っていた。

(6) 被告A川の執務体制

高い業績を上げていたがしばらく会社を離れていたC原が復職するに当たり、同人が被告A川を嫌っていたことから、被告A川は、平成元年六月ころ、表向きは休職する形を取り、表立ってB原に出社することはほとんどなくなった。被告D川は、原告E田に対し、被告A川はC原と関係が悪いから影で働いてもらっている旨を明言していた。しかし、B原は、被告A川に対し、出社しなくなってからも報酬を支払い続けた。また、被告A川は、当時から婚約者であった被告D川や社長室勤務のA本らを通じ、本部長の肩書でB原の経営に関わっていたし、右の休職後も、居酒屋などで行われるギャザと呼ばれるミーティングに出席したり、原告C山を呼び出して仕事の指導をしたり叱ったりすることも数回あった。被告A川は、このような指導を被告D川の暗黙の依頼に基づいて行っていた。被告A川は、遅くとも平成元年ころには被告D川と結婚を前提に交際し、遅くとも平成二年一二月ころには婚約してこれを原告B野に報告した。

(五) B原の倒産

B原は、平成四年八月ころA原から破産を申し立てられ、平成五年一月一一日横浜地方裁判所による破産宣告決定を受け、同六年八月一〇日費用不足による破産廃止決定が確定した。

3  原告A野の交付金員回復請求(別紙1①⑧⑨⑩の請求関係)

(一) 社内預金名目の一八七万三〇三七円の交付の状況

(1) 入社と被告D川の働き掛け

原告A野は、平成四年三月三一日、B原に入社して仕事を開始したが、パートタイマーという扱いであった。

原告A野は、それから間もない同年四月二三日、被告D川らと会食し、同席者が先に帰った後に、被告D川から、「あなたをマネージャーとして教育していきたい。」「マネージャーになるためには、自己管理ができなくてはならない。自己管理とは、健康、感情、時間、そして金銭の管理のことであり、少なくとも一年は、自分にすべてを任せて仕事に打ち込むように。」等と言われ、さらに社内預金の話が出され、「来春まで頑張れば、特別に年一七パーセントの利率で応援してやる。」「会社は大変利益が上がっており、会社の利益を税金に持って行かれることが経営者としてとても悔しい。」などと告げられた。このとき原告A野は、マネージャーとして教育を受けることは了承したが、社内預金として金員を預けるか否かについては返事をしなかった。

(2) 社内預金名目の預託の約束

ところが、原告A野は、翌日(平成四年四月二四日)、被告D川から電話で叱責されその剣幕に驚いたこともあり、被告D川との間で、年率一七パーセントの利息を付ける条件で二〇〇万円を預け入れる約束をした。

(3) 一〇七万三〇三七円の預託

そして、原告A野は、平成四年四月二七日、B原の社長室において、被告D川本人に、銀行振出しの小切手で、一〇七万三〇三七円を交付し、「社内預金分として」と記載されたB原名義の仮の預り証を受領した。

(4) 八〇万円の交付

さらに、平成四年五月七日、原告A野は、被告D川に激しい剣幕で残金の交付を求められ、言われたとおりにすることとし、B原のB沢主任の車で原告A野の取引のあった野村証券横浜支店に連れて行かれ、そこで八〇万円を引き出し、B原に持参して被告E原に交付した。被告E原は、このとき原告A野に対し、同年四月二七日の交付分と合わせて、「社内預金として」と記載されたB原名義の一八七万三〇三七円の預り証を、前記仮の預り証と引換えに交付した。

(5) 返還表明と虚偽

被告D川は、平成四年八月二一日ころ、原告A野に対して、B原として、また自分自身としても、責任をもって返済を行う旨を述べた。

ところが、B原には、社内預金の制度はなく、帳簿上もその旨明らかにして記帳されることはなかった。

(6) 一部返済

その後、原告A野には、平成五年一月二五日及び同年二月一日に、各五万七三七〇円が返済された。ただし、これは、原告A野に連絡なしに、同原告の給与の振込口座に、被告D川名義で振込入金されたものであった。

なお、原告A野は、被告A川と面識はない。

(二) 原告A野の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告D川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

(1) 虚偽事実の告知

(一)(5)のとおりB原には社内預金の制度がなく、帳簿上もその旨明らかにして記載されることはなかったから、(一)(3)及び(4)のようにして原告A野に金員を交付させたのは、それ自体虚偽の事実を利用してのことであり、それがB原の法人としての不法な行為となるかどうかは別にして、少なくとも被告D川個人による虚偽事実の告知というべき性質を有するものである。

(2) 支払能力の欠如

ところで、被告D川は、原告A野に(一)のとおり金員を交付させた当時、B原の資金繰りがつかない旨を原告らを含む多数の従業員に告げて金員の交付を受けていること、とりわけ、原告D原には会社に金員がないことを理由に同原告に交通費も支払おうとせず、このままでは不渡りが出るなどと告げて京都校の責任者であったC林三子(以下「C林」という。)や原告E田には、家賃を含む運営資金の送金をしないでその売上金のすべてを送金させ続け、さらにはB原の従業員にその名義でいわゆるサラ金から金を借り入れさせてこれを送金させるなどをしていることは、後記7(一)(7)及び(8)並びに8(一)(3)及び(4)のとおりである。

このように(一)(3)及び(4)の当時B原には支払能力がなかった(その主な原因の一つは、2(四)(5)及び(6)のとおり、B原の売上げな被告D川及び同A川により不当にB原から持ち出されたことにあると解される。)というほかないので、原告A野から社内預金名義で預かった金員とその利息をB原の資金を用いて返還する意思はなかったというべきである。

なお、被告D川は、社内預金の預入れを勧誘するために、会社の利益が大変上がっており、その返済が確実である旨を告げているが、B原の右のとおりの資金事情に照らすと、この文言は虚偽であり、この点でも虚偽事実を告げて金員を交付させたことになる。

(3) 被告D川個人の返済意思の有無

次に、被告D川の個人として返還する意思についてもこれを認めることはできず、かえって、次のとおり、全く返還の意思はなかったというべきである。

すなわち、被告D川は、後記7(一)(7)及び(8)並びに8(一)(3)及び(4)のとおり、資金繰りがつかない旨を原告E田及び同A田に告げて送金をさせている。被告D川は、原告A野を含め、このころ新しい従業員を採用するに際しては、本人の資質よりも、本人又はその親族の財産の多寡を重視していた。さらに、従業員に対しては資金繰りが付かない旨を告げながら、パートを追加的に募集しようとし、自らは八万円もする高価な犬を衝動買いしたり正月に婚約者であった被告A川とプリンスホテルで数泊し、平成三年一一月二五日ころ、九八万八〇〇〇円及び三八万四〇〇〇円の指輪を購入して被告A川に与えるなどしており、資金繰りに苦しむ会社の経営者の行状としては理解し難いものがある。また、《証拠省略》によれば、被告D川は、原告B野に、平成四年一一月ころ、B原を破産させれば借金を払う必要がなくなる旨を告げて原告B野にたしなめられている事実が認められる。

このように、原告A野が被告D川に金員を交付した平成四年ころには、被告D川はB原を真摯に経営する意思はなく、従業員から金員を騙し取るためのいわば道具として同社を利用していたと推認される。このことからすれば、右時期において、被告D川に、返済の意思があったとは認め難い。

(4) 被告D川の主張に対する判断

これに対し、被告D川は、右金員の交付時に返済の意思があった旨を主張し、本件尋問においても、平成四年初めころには、B原の経営状況はそんなに悪いという認識ではなかったと供述する。

しかし、前記の事実に照らし、右供述は採用し難い。被告D川は、同A川と婚約していた事実すら否定するなど、客観的な《証拠省略》に反する供述すら平然と行っており、その供述は、全般に信用性が薄弱である。

(5) まとめ

以上のとおり、被告D川が返還する意思もなく、虚偽の事実を述べて原告A野から金員の交付を受けることは、詐欺として違法であり、不法行為に当たる。

なお、原告A野に対し、平成五年一月二五日及び同年二月一日、各五万七三七〇円が支払われているが、このことは、極めて例外的な措置であり、金額的にも低額であるから、詐欺による金員の騙取であると疑われないようにするためのことと考えるのが相当であり、金員を交付させた時点において被告D川に返還意思があったと推認させる事情となるものではないが、原告A野の回復を求めるべき損害はそれだけ少なくなったというべきである。

よって、被告D川に対する不法行為に基づき損害賠償請求は、右金額を控除した限度(一七五万八二九七円)で理由があるというべきである。また、右の金額に対する不法行為の最後の日である平成四年五月七日((一)(4))から年五分の割合による遅延損害金の請求も理由がある。

(三) 原告A野の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告E原の責任の有無(別紙1①の請求関係)

(1) 預り証の発行

被告E原は、B原に社内預金という制度が存在していないことを知っていたにもかかわらず、右の預入れの手続を行う際に、原告A野に対し、B原名義の社内預金として受け入れる旨を記載した預り証等を発行した。これにより、社内預金制度の適用を受けることができるという原告A野の誤解が助長されたというべきである。

(2) 公私混同の記帳

被告E原は、簿記一級の資格を持ち、経理について十分な知識を持っていながら、被告D川の個人的支出と会社の支出とを混在して記帳を行っている。

また、原告A野が被告E原を通じて社内預金の預入れの手続を行っているにもかかわらず、被告E原は、一貫してこれらの金員についてB原の元帳又は決算書の内訳に記載をしていない。

これらにより、社内預金としての預りの事実が不明となり、被告D川の原告A野に対する金員詐取という不法行為の責任追及を困難にしたということができる。

(3) 裏帳簿の作成

また、B原の第七期決算報告書(平成三年四月一日から同四年三月三一日)に記載されている「授業料収入」は、一億六八五四万二六二二円にすぎないが、被告D川及び同E原の手書きによる業務日誌上では、二億五三五七万三〇〇〇円であり、約八五〇〇万円もの開きがある。右業務日誌上の横浜校の売上げの数値(一億九二八七万二〇〇〇円)は、甲四〇の報告書の数値(契約書等から算出した横浜校の売上げの数値。一億九二四三万七〇〇〇円。)とほぼ一致しており、信用するに足りるということができる。

したがって、被告E原は、公表された決算報告書とは異なる真実を記載した裏帳簿をそれと知りながら作成していたということができる。さらに、出納帳には、収入に対する一〇パーセントの割合の金員を被告D川に交付した旨が記載されている。これについて、被告E原は、会社の出費に備えてのことである旨を供述するが、不合理であり、合理的な理由もなしに不正な裏金処理をそれと知りながら行っていたというべきである。

(4) 幇助

被告E原は、被告A川と比較しても、B原における地位はそれほど高かったわけでもなく、また、右のような行為に関与したことによって、自らどのような利益を受けたかは、《証拠省略》に照らしても明らかではない。したがって、以上の(1)から(3)までの事実によっても、原告A野から(一)の金員を交付させることにつき、被告E原が被告D川と共謀したとまで事実を認めるのはいささか無理がある。

しかし、以上の(1)から(3)までの事実によれば、被告E原は、少なくとも右の平成四年五月ころにおいては、被告D川から指示されるままに何も分からずに帳簿を作成していたというものではなく、B原の裏帳簿の作成に関与することによりB原の金員を被告D川個人のために使用される場合があることを知り、またB原の公表されている計算書類上の金額は真実より入金額を少なくしていることを知っていたというべきである。

したがって、原告A野が被告D川に騙され、存在しない社内預金を存在するものと思い込んでいること、原告A野の交付金は被告D川個人のために使われる可能性もあり、それにより原告A野の交付金の返還(回復)の可能性がそれだけ減少すること、被告E原は、これらのことを知っていたということができる。このように、被告E原は、原告A野の陥っている誤解を是正し、被害を被らせないようにできる立場にありながら、それをせずにB原名義の「社内預金として」と記載された預り証を交付して同原告の誤解を助長したものである。そうすると、被告E原は、同D川の詐取行為を助けた(幇助した)ものとして、原告A野に対し被告D川とともに責任を負うというべきである(民法七一九条二項)。

なお、原告らは「共謀」による責任を主張しているにすぎず「幇助」による責任を主張しているものではないが、これは法的構成の相違にすぎず、また同一の民法七一九条による責任であることを考慮するならば、「幇助」による責任を認めても弁論主義に違反するものではない。

よって、被告E原は、原告A野に対し、被告D川と連帯して一七五万八二九七円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負うべきである。

(四) 原告A野の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告A川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

(1) 被告A川の業務態様

被告A川は、平成元年六月ころにはB原を休職する形を表向きは取っていたが、婚約者であった被告D川や社長室勤務のA本らを通じ、本部長の肩書きでB原の経営の中枢に関わっており、会社の経営状況について熟知していた。

(2) 収入と資産形成

被告A川には、休職の形を取った後の平成三年に、B原から外交員報酬として七二〇万円が支払われている。

被告A川は、B原に出社しないのに報酬をもらっていることの理由を訊かれ、被告D川に預けている金員あるいは部下の収入の上がりの一部からの受領であると答え、その積立金の額は三〇〇〇万円ぐらいであった等と供述している。しかし、出社して働くわけでもなく、特定の部下の上がりの一部を受領する旨特段の合意をしているとの証拠もない上、このような大金について金額交付の趣旨を明確に説明できないのであるから、右供述は内容的に不自然であるといわざるを得ない。他方で、被告A川は、二億円近い蓄えを実現したと被告D川が話していたことが認められる。そして、二億円近い蓄財の有無を聞かれ、被告A川自身は、覚えていない等と言った曖昧な返答をしている。また、被告D川は、平成三年一〇月ころ、被告A川のために同被告の両親の家の新築費用四〇〇〇万円を支払った。

(3) 被告D川との親密度

そうすると、被告A川は、(1)のとおりB原と不定期の関わりはあるとはいえ、明確な形でB原で働いているわけではない期間において、(2)のとおり報酬名目で金員を取得し、B原との当初からの関与を通じて相当高額の金員を取得しているということができる。

そして、被告A川は、長年被告D川と親密な関係にあり、遅くとも平成二年一二月ころには、被告D川と婚約し、被告D川はこれを原告B野に報告している。そして、被告A川は、(二)(3)のとおり、被告D川から高価な宝石を与えられ、正月にホテルで宿泊するなどしている。

これらの点に照らすと、被告A川は、被告D川と人的及び金銭面でも極めて強い結び付きがあり、かつ、その取得した金額の大きさ、内容の不透明性からみて、被告D川が説明の困難な不正な金員をB原を通じて手にしていることを知りながら、その入手金による利益を享受しているということができる。

(4) 共謀及び加担の有無

したがって、被告A川が同D川の不正な行為に何らかの形で加担していれば被告A川もそのことにつき被告D川と共同責任を負うということができるが、ここでの原告A野との関係についていえば、被告A川が被告D川の原告A野に対する不法行為に何らかの具体的な態様で加担をしているとの事実を認めるに足りる証拠はない。そもそも被告A川は、原告A野その他の従業員から被告D川が社内預金名目で金員を交付させていることの具体的認識がなく、また、原告A野との面識もない((一)(6))。

そうすると、被告A川については、(一)の原告A野から社内預金名目で金員を交付させたことについての不法行為責任は認められないというほかない。

(五) 原告A野の慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

前記認定事実によれば、原告A野は、その主張に係る財産的損害を受けたのであるが、そのことについて、財産的損害賠償によって賄うことのできない精神的損害があるとまでの事実を認めるに足りる証拠はない。

よって、標記の請求は、理由がない。

(六) 原告A野の(一)の社内預金名目の金員交付についての商法二六六条の三の責任の有無(別紙1⑨の請求関係)

被告D川に対しては、主位的な請求である不法行為責任が基本的に認められるので、この部分については予備的な請求を検討する必要はないことになる。なお、主位的請求中には返金と見られる金員の交付により一部棄却となる部分があるが、この点は商法二六六条の三の請求の場合にも同様となるから、被告D川に対する関係では、商法二六六条の三の請求の検討はこれ以上は必要がない。

次に、被告A川は、被告D川がB原の代表取締役として原告A野に対して不法行為を行うことにつき認識していないことは前記判断のとおりである。しかし、被告A川はB原の取締役であり、被告D川の代表取締役としての職務行為を監視監督する義務が存する。そして、まず、被告D川が社内預金名目で金員を預かることは、社内預金制度のないB原においても、外形上は職務行為に該当する。次に、前記の事実及び後記の原告B山、同C川、同D原からの社内預金名目の詐取について認定する事実によれば、右原告からの預り金が社内預金として帳簿に記載されていないために被告A川は右詐取の事実を認識し得ないが、被告A川と親密な関係にあり婚約までしていたこと、被告A川は、休職の形が取られた後にもB原から報酬を受領していたこと、被告D川を通じて同被告が不正に取得していた金員により利益を受けていたこと、被告A川は表向きの休職中もB原の経営に関与していたと見られること、後記の各原告らについて認定するとおり、平成四年ころには、B原の資金繰りが正常とはいえない状況に至っており、B原の従業員の数や被告A川の従業員に対する影響力からすると、少なくとも平成四年の段階では、被告A川は同D川による社内預金名目の詐取について容易に知り得たと認められる。以上によれば、被告A川は、同D川による右詐取を漫然と看過したことについて、重過失があったと認めるのが相当である。よって、取締役の第三者責任として、被告A川は、原告A野に対し、被告D川及び同E原と同額、一七五万八二九七円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負う。

(七) 原告A野の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告D川の契約責任の有無(別紙1⑩の請求関係)

原告A野は、前記の金員の返済債務について、被告D川が重畳的に元本及びこれに対する利息年一七パーセントの割合による債務を引き受け又は保証した旨を主張する。

しかし、結論的にいうと、予備的請求を判断する必要はないと解するのが相当である。右主張のとおり予備的請求における利息の約定利率が高いことでもあるので、不法行為責任が成立しても別途その契約責任を検討する必要があるようにも見えるが、主位的請求は、被告D川だけではなく、被告A川及び同E原も対象としており、また、慰謝料請求を伴うものであり、それらの点にも不法行為請求を主位的請求とすることの理由がうかがわれる。したがって、このような場合には、まず、当事者の定めた請求の順序に従うのが相当であり、選択的併合のように扱うことは相当ではない。そして、本件ではその主位的請求の全部が認容される場合はもとよりその一部でも認容される限り、予備的請求について判断する必要はないと解するのが相当である。というのは、本件で主位的請求と予備的請求との間には対比することが困難な程の質の違いがあり、主位的請求の一部でも排斥されたとき、残余の主位的請求認容部分と予備的請求で認められる部分を量的に対比することが困難であるから、予備的請求を求める趣旨ではないというのが当事者の意思であると解されるからである。原告B野の請求を見ると、金額が少額の不法行為請求が主位的請求とされ、金額が多額の契約責任が予備的請求とされているところ、このようなことからも、原告らは不法行為を先順位にする意思であるとうかがわれるところである。

4  原告B山の交付金回復請求(別紙1①⑧⑨の請求関係)

(一) 社内預金名目の八三五万円の交付の状況

(1) 入社

原告B山は、平成四年一月末ころ、新聞の折込広告を見て、B原の人材募集に応募し、採用され、同年二月から同年八月まで、B原で電話により英会話の授業を受けることの勧誘をする営業の仕事に従事していた。なお、原告B山は、被告A川と面識はない。

被告D川は、研修兼会社説明の際、新規採用社員から言葉巧みに貯金高を聞き出していた。原告B山はこれに八〇〇万円と答えた。これが、そのときの採用社員の中では最高額であった。

(2) 被告D川の働き掛けと預金の約束

原告B山は、B原で仕事を開始してすぐに、被告D川から同社の社長室に呼び出された。被告D川は、同社で成功した他の社員の例を話しながら、「うちでは社内預金をやっている。利率は年一七から二〇パーセントだ。銀行に預けるよりはずっと良いだろう。必要があればすぐに引き出せる。」「会社はもうかっても税金にたくさん持って行かれるのが惜しい。」「自分は数億の財産を持っているから十分だ。社員のために遷元していきたい。」「この話は会社にとって重要な人にしかしていない。」「あなたはマネージャーになって頑張ってほしい。」「D谷マネージャーやC原マネージャーもやっている。」などと原告B山に語りかけた。

原告B山は、被告D川の言葉を信用し、年率二割の利息を付ける条件で社内預金をする旨を口頭で約束した。

そして、原告B山は、前記第二の二2(二)の(1)及び(2)記載の日(平成四年二月二五日及び翌二六日)、同箇所記載の金員(各四五万円)を、被告D川の指示で、同E原に交付し、「社内預金として」と記載されたB原名義の預り証を受領した。

(3) 平成四年三月三日の一〇五万円

また、被告D川は、前記第二の二2(二)の(3)記載の日(平成四年三月三日)、原告B山を社長室に呼び出し、「当座の金が必要だがもう銀行は閉まっている。すぐに返せるので貸してもらえないか。」と告げた。原告B山は、今は全くないと答えたところ、クレジットカードの交付と暗証番号の教示を求められ、それに従った。被告D川は、B原の運転手のB沢に命じ、原告B山から交付されたクレジットカード二枚で八〇万円を借り入れさせた。さらに、原告B山が被告D川に、自宅に行けば少しへそくりがあると述べたため、被告D川は原告B山とともにその自宅に赴き、原告B山から二五万円の交付を受けた。そして、右の合計額である一〇五万円分について、「社内預金として」と記載されたB原名義の預り証の交付を受けた。

(4) 平成四年三月四日から同月三一日の六四〇万円

原告B山が、その翌日(平成四年三月四日)、被告D川に前記のクレジットカードによる借入れの返済状況について尋ねると、社内預金をしておけば年率二〇パーセントの利息が付くのだから、そのままにしておいた方が得である旨を告げられ、原告B山はその言葉を信じてそれ以上追及しなかった。

原告B山は、その後、自分の中期国債ファンドの解約金、水戸証券の株式売却代金、オーストラリアワリコクの満期金など、資産のほとんどに当たる前記第二の二2(二)の(4)から(8)記載の金員(合計六四〇万円)を、同箇所記載の日(平成四年三月四日から同月三一日)、社内預金とする約束で被告D川に交付し、それぞれについて、「社内預金として」と記載されたB原名義の被告E原作成の預り証の交付を受けた。

(5) 真相と一部返済

ところが、B原には、社内預金の制度はなく、帳簿上もその旨明らかにして記帳されることはなかった。

その後、原告B山に対し、平成四年七月三一日に一四万円、同年九月九日に二万円、同五年一月二五日に六万四五三一円、同年二月一日に六万四五三一円が支払われた。また、前記のクレジットカードによる借入れについては返済がされなかったため、原告B山の銀行預金口座から引き落とされた。

(二) 原告B山の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告D川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

被告D川は、(一)の金員の受領時に返済の意思がなく、虚偽の事実を言葉巧みに述べて原告B山から右金員合計八三五万円の交付を受けたことは、詐欺として違法であり、不法行為に当たる。その理由は、原告A野について述べたところと同様である。

なお、(一)(5)のとおり、原告B山に対し、平成四年七月三一日以降に支払われた金員があるところ、このことは、極めて例外的な措置であり、金額的にも低額であるから、詐欺による金員の騙取であると疑われないようにするためのことと考えるのが相当であり、金員を交付させた時点において被告D川に返還意思があったと推認させる事情となるものではないが、原告B山の回復を求めるべき損害はそれだけ少なくなったというべきである。

よって、被告D川に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、右金額を控除した限度(八〇六万〇九三八円)で理由があるというべきである。また、右の金額に対する不法行為の最後の日である平成四年三月三一日((一)(4))から年五分の割合による遅延損害金の請求も理由がある。

(三) 原告B山の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告E原の責任の有無(別紙1①の請求関係)

原告A野の該当箇所で述べたのと同様の理由により、原告B山が被告D川に騙され、存在しない社内預金を存在するものと思い込んでいること、原告B山の交付金は被告D川個人のために使われる可能性もあり、それにより原告B山の交付金の返還(回復)の可能性がそれだけ減少すること、被告E原は、これらのことを知っていたということが認められる。このように、被告E原は、原告B山の陥っている誤解を是正し、被害を被らせないようにできる立場にありながら、それをせずにB原名義の「社内預金として」と記載された預り証を交付して同原告の誤解を助長したものである。そうすると、被告E原は、同D川の詐取行為を助けた(幇助した)ものとして、原告B山に対し被告D川とともに責任を負うというべきである(民法七一九条二項)。

よって、被告E原は、原告B山に対し、被告D川と連帯して(二)の八〇六万〇九三八円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負うべきである。

(四) 原告B山の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告A川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

原告A野の該当箇所で述べたのと同様、被告A川が同D川の原告B山に対する不法行為に何らかの具体的な態様で加担をしているとの事実を認めるに足りる証拠はない。そもそも被告A川は、原告B山その他の従業員に対して被告D川が社内預金名目で金員を交付させるということの具体的認識がなく、原告B山と面識もない((一)(1))。

そうすると、被告A川については、(一)の原告B山から社内預金名目で金員を交付させたことについての責任は認められないというほかない。

(五) 原告B山の慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

前記認定事実によれば、原告B山は、その主張に係る財産的損害を受けたのであるが、財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害まで受けたとの事実は認められない。

よって、標記の請求は、理由がない。

(六) 原告B山の(一)の社内預金名目の金員交付についての商法二六六条の三の責任の有無(別紙1⑨の請求関係)

被告D川に対しては、主位的な請求である不法行為責任が基本的に認められるので、この部分については予備的な請求を検討する必要はないことになる。なお、主位的請求中には返金と見られる金員の交付により一部棄却となる部分があるが、この点は商法二六六条の三の請求の場合にも同様となるから、被告D川に対する関係では、商法二六六条の三の請求の検討はこれ以上は必要がない。

次に、被告A川は前記3(六)において原告A野について述べたのと同様の理由により、取締役の第三者責任として、被告D川及び同E原と同じく、八〇六万〇九三八円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負う。

5  原告C川の交付金回復請求(別紙1①⑧⑨の請求関係)

(一) 金員交付の状況

(1) 入社

原告C川は、平成二年六月初旬ころ、求人広告を見てB原への就職を希望し、C原による面接を受けた。原告C川は営業向きではなかったので、C原は不採用とした。ところが、C原の知らない間に、被告D川の意向で経理補助として原告C川が採用され、原告C川は、同年七月四日から、社長室で勤務を始めた。

(2) 社内預金の合意

採用前の会社説明時の面接で、被告D川は、「貯金は人物を表す。」と言って、原告C川の貯金額が約五〇〇万円であることを聞き出していた。

原告C川は、同月一〇日ころ、被告D川にホテルのレストランでの食事に誘われ、その後同じホテルの最上階にあるバーに行った。被告D川は、原告C川に、社内預金をしないかと持ちかけた。被告D川は、「社内預金は、社長室のメンバーとラウンジのメンバーで古くから働いている人だけの特権である。一生懸命働いてくれているので年率二〇パーセントの利息を付けている。あなたにはこれからB原の中心として働いてほしい。五〇〇万円全額を預けると困ることもあるだろうから四五〇万円を預ければよい。」「E原に社長から社内預金の話をされたと言うように。」と話した。

原告C川が、数日後、被告E原及びA本と居酒屋に行った際、被告E原に同D川から社内預金をしないかと言われたので預けたい旨を話すと、被告E原は、にこにこしながら「もうその話が出たの。」と言った。

原告C川は、平成二年七月二四日、被告D川とミーティングの機会を持ち、被告D川は預り金に対し年率二〇パーセントの利息を付けることを約束し、被告E原はその旨のメモを作成した。

(3) 社内預金名目の金員の交付

原告C川は、翌日(平成二年七月二五日)、銀行及び郵便局で預貯金を下ろし、四五〇万円を被告E原に交付し、「社内預り金として」と記載されたB原名義の預り証を受領した。右預り証は、金員の交付の日ではなく、原告C川が入社した平成二年七月四日付けで作成された。利息が付くのが早まるからという説明であった。

(4) 真相

ところが、B原には、社内預金の制度はなく、帳簿上もその旨明らかにして記帳されることはなかった。

(5) 一部返済と退社

その後、第二の二2(三)(1)から(4)のとおり合計六〇万円が原告C川に交付された。

なお、原告C川は、被告A川と三回会ったことがあるが、仕事に関する深い話をしたことはなかった。

また、原告C川は、たまたま他の社員が退職するのに社内預金を返してもらえないということを耳にし、自分の分も危ないと感じ、社内預金の返還を催促したが、埓があかなかった。そして、原告C川は平成四年五月一五日にB原を退職した。

(二) 原告C川の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告D川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

(1) B原には、そもそも社内預金の制度はなく、帳簿上もその旨明らかにして記帳されることはなかったので、社内預金名目で金員を交付させることは、虚偽事実を告げて金員を交付させることである。

しかも、結果的に見ると、その大部分をB原としても被告D川個人としても返還していないのである。ところで、B原がこの金員をどう扱かったかを検討すると、次のとおりの事情からすると、B原のものとしては処理されていないというのが相当である。すなわち、B原が原告C川から四五〇万円を受け入れたと記載されたB原の帳簿が存在するが、四〇〇万円が被告D川からB原に入金されたと記載された帳簿があり、さらに原告C川の右預金についてなんらの記載もされていない帳簿が存在する。さらに、総勘定元帳を見ると、平成二年七月二五日に被告D川からB原に四〇〇万円が入金され、同年九月二五日に被告D川に四〇〇万円が返金された旨が記載されている。したがって、原告C川から社内預金名目で被告C川あるいはB原に交付された金員のうち五〇万円は、当初から被告D川が自身のものとし、残金四〇〇万円は被告D川においていったんはB原に預けた形を取りながら、その後二か月程して確定的に自身の支配下においてこれを取得したというべきである。したがって、平成二年七月ころ原告C川にされた虚偽事実の告知により交付された四五〇万円の全体につき、虚偽事実の告知という違法な行為と原告C川の被害との間には相当因果関係があり、被告D川が社内預金のないB原を利用しながら原告C川からこれを詐取したというのが相当である。被告D川が右金員を交付させたことは不法行為に該当する。

(2) なお、その後原告C川に返還された金員が六〇万円あるところ、原告C川はこれを控除して三九〇万円の返還請求をしているので、右請求及び不法行為時(金員が交付された平成二年七月二五日)から年五パーセントの割合による遅延損害金請求は、全部理由がある。

(三) 原告C川の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告E原の責任の有無(別紙1①の請求関係)

原告A野の該当箇所で述べたのと同様の理由により、原告C川が(一)の金員の交付時において被告D川に騙され、存在しない社内預金を存在するものと思い込んでいることを被告E原は知っていたということができる。しかし、ここでの交付のされた時期が、平成二年七月ころであり、被告D川関係の帳簿とB原の帳簿を一つにまとめた時期(平成二年一〇月一七日)よりも前のことであるから、原告C川の交付金が被告D川個人のために使われるかどうか、その返還(回復)の可能性がどの程度不確かなものであるかについては、被告E原は、預り証を交付する時点では十分に掌握していたとまでは認めることができない。したがって、被告E原は、原告C川の金員交付が誤解に基づくことは知っており、預り証を出すことでそのような被告D川の詐取行為に加担し、原告C川の誤解を解かないことになるものの、そのことにより原告C川が損害を被ることになるとまでの認識は不確かであったというべきであり、結局のところ、被告D川による不法行為への被告E原による幇助は未だ成立しないというのが相当である。

よって、被告E原は、原告C川に対しては、(二)の三九〇万円の損害賠償責任を負わないというべきである。

(四) 原告C川の(一)の社内預金名目の金員交付についての被告A川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

原告A野の該当箇所で述べたのと同様の理由により、被告A川が同D川の原告C川に対する不法行為に何らかの具体的な態様で加担をしているとの事実を認めるに足りる証拠はない。そもそも被告A川は、原告C川その他の従業員に対して被告D川が社内預金名目で金員を交付させるということの具体的認識がなく、原告C川と会った回数もわずか三回にすぎない((一)(5))。

そうすると、被告A川については、(一)の原告C川から社内預金名目で金員を交付させたことについての不法行為責任は認められないというほかない。

(五) 原告C川の慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

前記認定事実によれば、原告C川は、その主張に係る財産的損害を受けたのであるが、財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害まで受けたとの事実は認められない。

よって、標記の請求は、理由がない。

(六) 原告C川の(一)の社内預金名目の金員交付についての商法二六六条の三の責任の有無(別紙1⑨の請求関係)

被告D川に対しては、主位的な請求である不法行為責任が全部認められるので、予備的な請求を検討する必要はないことになる。

次に、被告A川はB原の取締役であるが、被告D川が何らかの不法行為を行っているということを認識していたとしても、それが具体的にどのような態様のものかについての認識はなかったことは前示のとおりである。そして、平成二年七月ころの段階において、被告E原が従業員から受け入れた金員について社内預金として処理をしていなかったこと、まだ多数の者から同様の方法で金員を詐取していたわけではないこと等を考慮すると、これを認識しなかったことについて重過失があったということはできない。よって、取締役の第三者責任という構成による被告A川に対する請求は理由がない。

6  原告D原の交付金回復請求(別紙1①⑧⑨の請求関係)

(一) 金員交付の状況

(1) B原との関わり

原告D原は、昭和五五年四月から同五八年九月まで、日本D田において、子供向け英会話教材のフルコミッションによる販売員をしており、当時は、被告D川及び同A川の部下であった。

原告D原は、昭和五八年一〇月、被告D川に誘われて同被告らとともにE野インターナショナルに移籍し、同六〇年三月まで、同社において子供向け英会話教材の販売等を担当した。

原告D原は、昭和六〇年四月のB原の設立後、B原の会員募集の仕事(コミッションの発生しない仕事)に従事するとともに、その傍らE野インターナショナルの教材販売の仕事もしていた(昭和六〇年四月から同年一一月までと昭和六一年一月から三月まではB原のコミッションの発生しない仕事をしていたので、行動費の名目で給与を受け取っていた。)。

(2) 社内預金名目の金員の交付

原告D原は、昭和六一年四月二三日に父を亡くしたため保険金が一〇〇〇万円入ったことを被告D川に話した。その後くらいから、被告D川は、原告D原を内勤に変え、自分のオフィスに原告D原を入れ、ことあるごとに、「自分は君を身内、兄弟のように思っている。」「保険金を貯金するのはばかくさい。」「今度増資の話をしに富山に行ってくるが、君を特別にその中に入れてやってもいい。」「特別な人間だけに一五パーセントの利息を付けている。」「五〇〇万円を預ければ、利息は年七五万円、月六万二五〇〇円にもなる。」などと述べるようになった。原告D原は、そのような被告D川の話を聞いて、「被告D川は自分のために話してくれている。」「被告D川にお金を取られることなどあるわけない。」「母も楽になるだろう。」という気持ちになり、被告D川に、昭和六一年六月六日に三〇〇万円を、同年七月三日に二〇〇万円を交付し、「増資分として」と記載されたB原名義の預り証を受領した。原告D原は、被告D川の話を信じていたので、月当たり六万二五〇〇円が支払われると思っていた。

(3) 利息金名目の金員の支払の遅滞

その後平成二年八月八日まで、原告D原の母であるD原四子の預金口座に、一月当たり約四万円、総額で約五二万円の支払があったのみで、その後は支払われなかった。そこで、原告D原が被告D川に問いただすと、被告D川は、「わかったわかった。給与に入れるから。細かいことはごちゃごちゃ言うな。それより今日の仕事のことを考えろ。ちゃんとしてやるから。」と返事をするだけであった。実際には、自分の給与から一月当たり約四万円が差し引かれていたので、右の利息も支払われていなかったことが後に判明した。また、右の金員は、増資のためにも使われなかった。

原告D原は、その後疑念を持ちながらも被告らの言葉を信じ、被告D川の指示を受けながら仕事に従事していたが、平成四年七月二二日に被告D川から唾を吐き掛けられるなどしたことを機に、同年八月一七日、B原を退社した。その後、原告D原が関連した資料を調べるうちに、自分を含め多数の者が被告D川から金員を騙し取られていることを知った。

(二) 原告D原の(一)の金員交付についての被告D川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

(1) 不法行為の成否

前記(一)の認定事実によれば、被告D川は、当時B原に増資の予定はなかったにもかかわらず、これがあるかのように原告D原を信じさせ、これに年率一五パーセントもの利息を支払うと信じさせて金員の交付を受けているのである。これは、虚偽の事実を告げて金員を交付させたものであって違法であり、不法行為に該当するということができる。なお、増資金に利息が付くことは法的には奇妙な説明であるが、そのような点を含めて全体が虚偽の事実と解される。

(2) 被告D川の主張に対する判断

被告D川は、原告D原の営業成績が悪くコミッション収入では生活できないからB原が援助した旨を主張する。

しかし、コミッション収入ではない固定収入もあったのであり、また、援助したことを認めるに足りる的確な証拠もないし、援助の返金として交付してもらうとの事実を認めるに足りる証拠もない。いずれにしろ、被告D川自身が、当時B原に増資の予定がなかった旨を供述しているのであり、この点において虚偽を述べて金員の交付を受けているのであるから、その余の点については考慮するまでもなく、被告D川の右行為は虚偽の事実を告げて金員を交付させたものであり、詐欺として不法行為に当たる。

(3) 抗弁(一)(消滅時効)の成否

被告D川は、右請求権は、時効によって消滅した旨を主張する。

しかし、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間の起算点は、「被害者又ハ其法定代理人カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」である(民法七二四条)ところ、本訴の提起の三年前に当たる平成三年五月ころは、原告D原は、被告らの言葉を信じ、被告D川の指示を受けながら仕事に従事していたのであるから、未だ、自らが被告D川に騙されていることに気付いておらず、「損害及ヒ加害者ヲ知」っていたとはいえない。

よって、標記の抗弁は、認められない。

(4) 以上から、被告D川は、原告D原に対し、交付した(一)の金員五〇〇万円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負う。

(三) 原告D原の(一)の金員交付についての被告E原の責任の有無(別紙1①の請求関係)

前記2(四)(2)のとおり、被告E原が、B原の経理を担当するようになったのは、昭和六一年一月ころからのことであり、原告D原が(一)のとおり金員を交付する前のことではあるが、昭和六二年ころに前任のE川が結婚で退職するまでは、E川と被告E原が分担して経理を担当していたのであり、《証拠省略》によれば、原告D原に交付された預り証はE川が作成したものと認められる。そして、本件全証拠によっても、被告D川が述べた虚偽事実を原告D原が信じて金員を交付したことを被告E原が知っていたとまでは認められない。

よって、被告E原は原告D原による(一)の金員交付について、被告D川と共謀その他の方法により関与したということはできず、これに責任を負うとすることはできない。

(四) 原告D原の(一)の金員交付についての被告A川の責任の有無(別紙1①の請求関係)

前記2(一)及び3(四)の認定事実並びに《証拠省略》によれば、被告A川は、B原において、被告D川と協力して、B原の独特の雰囲気を作り上げることに貢献していること、被告A川は、B原の取締役として、被告D川と協力してその経営に当たってきたといえること、原告D原は、入社以来被告D川及び同A川の部下であり、被告A川の強い影響を受けてきたことが認められる。

しかし、前記認定のとおり、原告D原が被告D川に金員を交付したのは、B原が設立されて約一年経ったころのことであり、本件全証拠によっても、この時期において、被告D川が原告D原に虚偽事実を告げて金員を交付させたことについて被告A川が知っていたことを窺わせる事情は認められない。

よって、被告A川が同D川と共謀等して原告D原に対する不法行為をしたとはいえず、被告A川は原告D原の(一)の金員交付について責任があるとはいえない。

(五) 原告D原の慰謝料請求の可否(後記二のただ働きによるものを除く。)(別紙1⑧の請求関係)

前記認定事実によれば、原告D原は、その主張に係る財産的損害を受けたのであるが、財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害まで受けたとの事実は認められない。

よって、標記の請求は、理由がない。

(六) 原告D原の(一)の金員交付についての商法二六六条の三の責任の有無(別紙1⑨の請求関係)

被告D川に対しては、主位的な請求である不法行為責任が全部認められるので、予備的な請求を検討する必要はないことになる。

次に、被告A川はB原の取締役であるが、被告D川がB原の代表取締役としての性格をも利用して「増資分として」原告D原に金員を交付させるという不法行為を行うことにつき、被告A川は認識していないから、それを監督是正すべき義務を故意又は重過失により怠ったということはできない。また、昭和六一年七月の段階では、これを認識しなかったことについて重過失があったとまでは認めることができない。

よって、取締役の第三者責任という構成による被告A川に対する請求は理由がない。

7  原告E田の交付金回復請求(別紙1②③⑧⑪の請求関係)

(一) 金員交付の状況

(1) 原告E田の入社

原告E田(当時は旧姓のE山)は、昭和五九年七月、E野インターナショナルの京都支社に入社し、営業の仕事に就いていた。同原告は、入社以来、月約一件の注文を受ける成績にとどまっていた。

(2) 昭和五九年一〇月の預託金一二九万二〇〇〇円

京都支社の業績を立て直すという名目で同年一〇月にE野インターナショナルの京都支社長に就任した被告D川は、原告E野に対し、「とりあえず半年はがむしゃらに頑張ってみろ。収入が安定するよう力が付くまで全面的に保証する。」「俺に賭けられるか。」「俺を信用して預ければ収入面でも保証する。」などと告げた。

そこで、原告E野は、被告D川に、コミッションの振り込まれる三菱銀行の通帳とカードを預けるとともに、昭和五九年一〇月二二日(ただし、争いのない事実としては、同月二九日)に一二九万二〇〇〇円(別紙1②⑪の請求関係に対応する金員)を、この通帳に振り込む方法で預けた。

(3) 被告D川の保証

(2)の際、被告D川は、最終的にそれらの金額を保証するとともに、年率一〇パーセントの利息を付ける旨を約束し、昭和五九年一〇月二九日、その旨の覚書を同日付けで作成して署名し(名義は、E野インターナショナルの「GM(ゼネラルマネジャー)D川梅夫」)、原告E田もこれに署名押印した。

(4) B原京都校開設

昭和六〇年に設立されたB原は、昭和六二年四月ころにE野インターナショナルとの関係を離れA原との取引関係に入った。その影響もあり、E野インターナショナル京都支社は、事務所を移転し教室を閉鎖した。他方で、平成元年ころから、B原は、英会話学校を主力とした活動をすることとなった。(前記2(二))

昭和六二年四月ころ、それまで名古屋支社に勤務していたC林がB原の京都支社で原告E田とともに働くようになった。

(5) 平成二年一一月末から一二月初めの貸金二二六万円

被告D川は、平成二年一一月ころ、原告E田に対し、電話で「A原との契約が切れ金に困っている。一二月に入ったら貸した金が返ってくるがそれまで苦しく、今だけ金が足りないが、君はいくらか持っていないか。」「平成三年になれば学研クレジットが利用できるようになる。」「貸した一〇〇〇万円が一二月に返ってくれば、三〇パーセントの利息を付けて来月返す。」などと話した。

そこで、原告E田は、返済する旨の被告D川の言葉を信じ、同年一一月七日から同年一二月四日までの間に四回にわたり合計二二六万円(第二の二2(五)(1)から(4)。別紙1③の請求関係の一部)をB原の本部に送金した。

(6) 被告E原の関与

(5)の送金の手続(振込先の指示)や原告E田による返済の督促は、ほとんど被告E原を通じて行われた。

(7) 平成四年六月から七月の貸金一二一万円

被告D川は、平成四年五月から六月にかけて、原告E田及びC林に対し、「大阪のB川がB原に一五〇〇万円を出してB原大阪校を独立させることになった。一、二週間後にこの一五〇〇万円が入るので、直ぐ払えるようになる。そこで、目下京都校の賃借料が払えないので、君のカードで払ってくれ。」と話した。

C林と原告E田は、真偽を確かめるために被告E原に電話をしたところ、被告E原は、「自分もついこの前直接B川と話したが、一五〇〇万円をB原に支払って独立するつもりであることは確かである。銀行の都合で時間がかかっている。近いうちにお金が入ることは絶対間違いない。」と述べた。

原告E田は、被告D川及び同E原の右の話を信じ、京都校の七月分の家賃やその他の当座の決済のために必要な資金として、行動費として支払われていた自分の給与と生命保険会社のカードを利用して借り入れた金などから、平成四年六月八日から同年七月一六日までの間に、一二一万円(前記第二の二2(五)(5)から(10)まで。別紙1③の請求関係の一部)をB原の本部に送金した。

(8) 平成四年八月の貸金一七〇万円

さらに被告D川は、平成四年七月末ころ、原告E田に対し、「銀行からなかなか金が下りないので、B川は妻の実家から借りることにした。」と述べた。その後も、被告D川は、原告E田に対し、C原が横浜校を独立させるため兄から二〇〇〇万円をB原に支払わせるなどという話をした。

その間も、C林及び原告E田は、京都校に出入りする業者、家主及び講師から金員の支払の請求を受け、支払が遅れていることの弁解に追われていた。売上金の一部を本部には送金せず講師の給与に充てたい旨を話したときも、被告D川は、「それなら明日から休校にすればよい。本社が潰れたらおしまいだ。先生はまた雇えばよい。」という態度であり、依然として京都校の売上金のすべてをB原の本部に送金させ続けた。さらに、被告D川は、平成四年八月二四日、原告E田に対し、「家族会議でC原が九月七日にB原に二〇〇〇万円を支払って横浜校を独立させることが決まった。それまで会社を倒産させないため、サラ金を回ってできるだけ金を借り入れるように。」と指示した。原告E田は、自分が協力しなかったためにB原が倒産したら、講師や生徒に申し訳ないし、自身責められるかもしれないとの怖れもあり、また、このころは、心労と栄養失調の状態で冷静に物事を考え判断できる状態でなかったこともあり、必ず返済するとの被告D川の言葉を信じ、同日から同月二七日までに、プロミス、アコム、キャスコ、アイフル及びハッピークレジットから合計一七〇万円(前記第二の二2(五)(11)から(13)まで。別紙1③の請求関係の一部)を借り入れ、これをB原の本部に送金した。

平成四年九月四日、面識のないE海夏夫という者から「B原はまもなく倒産する。京都校は切り捨てるつもりでいる。被告D川と被告A川は婚約しており、同じ穴のむじなである。被告D川は信用できない。」との警告を受けたので、原告E田は、真偽を確かめるために被告A川に電話連絡をしたところ、被告A川は、被告D川との婚約を否定し、被告D川を信じて頑張ってほしい、原告E田の借入分は自分が必ず月一、二万円ずつでも返すから被告D川に協力してほしい旨を述べた。

(9) 虚偽の判明

ところが真実は、B川は、英会話学校の経営に関しての出資の誘いを被告D川から受け、平成二年五月一八日に一五〇〇万円を被告D川に送金したものの、月に二五万円を支払うとの約束が当初の二回を除いて履行されず、それにもかかわらず平成四年ころ、同被告から一〇〇〇から一五〇〇万円の追加出資を求められたため、明確にこれを拒絶していた。また、被告D川が、平成四年七月ころ、C原に、横浜校を三〇〇万円から五〇〇万円で買わないかと持ちかけたことはあったものの、C原は、そのころ一〇〇〇名近くの生徒がおり大変な価値のある横浜校を、そのような安価で売るという被告D川の言葉に危ないものを感じ、明確にこれを拒絶していた。したがって、B川及びC原からB原に入金がある旨の被告D川及び同E原の話は、すべて虚偽であった。

(二) 原告E田の(一)(2)の預託金一二九万二〇〇〇円の回復請求(別紙1②の請求関係)

(1) 被告D川の不法行為の成否

標記の金員は、前記のとおり原告E田のコミッション業務を前提とした預り金であるところ、被告D川は、この金員の預りから一か月後には原告E田をコミッションの発生しない内勤の仕事に移している。このことからすると、被告D川は、右金員の交付をさせた時において、既にその約束どおり履行する意思はなかったと認めざるを得ない。

そうすると、右の金員の交付を受けることは単なる預りではなく、虚偽事実を述べて金員を交付させることであり、詐欺として不法行為に当たるというべきである。

(2) 抗弁(一)(消滅時効)の成否

被告D川は、右請求権は、時効によって消滅した旨を主張する。

しかし、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間の起算点は、「被害者又ハ其法定代理人カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」である(民法七二四条)ところ、本訴の提起の三年前に当たる平成三年五月ころは、原告E田は、被告らの言葉を信じ、C林とともに、京都校の運営に奔走していた時期である。したがって、原告E田は、この時期には、未だ、自らが被告D川に騙されていることに気付いていないから、「損害及ヒ加害者ヲ知」っていたとはいえない。

よって、標記の抗弁は、認められない。

(3) 被告E原及び同A川の責任の有無

本件全証拠によっても、被告D川が原告E田から(1)の金員を交付させることにつき、被告E原及び同A川が関与したとの事実は認められない。

(4) まとめ

よって、被告D川に対する不法行為に基づく損害賠償請求(一二九万二〇〇〇円)及び遅延損害金請求は理由があるが、被告E原及び同A川に対する請求は理由がない。

なお、原告E田は、被告D川に対しては予備的に契約責任を求めている(別紙1⑪の請求関係)が、原告A野について該当箇所で述べたとおり、主位的請求が認められるので、この予備的請求は判断の必要がない。

(三) 原告E田の(一)(5)の平成二年一一月末から一二月初めの貸金二二六万円の回復請求(別紙1③の請求関係の一部)

(1) 被告D川の責任の有無

平成二年一二月に入ったら返ってくるという返済原資としての「貸した金」が存在した旨を被告D川は供述するが、これについて客観的な裏付けはなく、右供述は信用できない。したがって、被告D川は、返済の意思が定かではないにも関わらず、返済の意思があるかのように装って金員の借入れを受けたものというべきである。しかも、後記二2(一)(1)のとおり、このころからB原の返済能力は従業員に給与を支払えない程となっていた。そうすると、標記の金員を交付させたことは、単なる借金にとどまらず、虚偽事実を告げてした詐欺として違法であり、不法行為に当たるというべきである。

(2) 被告E原の責任の有無

原告E田が、(一)(5)の二二六万円の交付時において被告D川に騙され、B原に目下のところは資金がないが、一か月後には資金が入り返済できるとの被告D川の説明を真実と思い込んでいたところ、被告E原は、(一)(6)のとおり送金手続に関与したものであり、それまでの被告D川との業務上の連携度からして、原告E田が騙されていることを知っていた可能性が高い。しかも、ここでの交付のされた時期は平成二年一一月であり、返済の見込みが極めて困難な時期に当たり(後記二2(一)(2))、被告D川個人の入出金とB原の入出金とが一つの帳簿に渾然と記載されるようになる平成二年一〇月一七日の直後のことであった。したがって、原告E田の交付金は被告D川個人のために使われ、しかも返済の可能性はかなり低くなっていたというべきである。したがって、被告E原は、原告E田の金員交付が誤解に基づくことは知っており、被告D川の詐取行為に加担し、原告E田の誤解を解かないことにより原告E田が損害を被ることになるとの認識を有していたというべきであり、結局のところ、被告D川の不法行為を同E原は幇助したと解するのが相当である。

(3) 被告A川の責任の有無

被告A川が被告D川の原告E田に対する(1)の不法行為に何らかの具体的な態様で加担をしているとの事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被告A川については、(一)(5)の二二六万円を原告E田から交付させたことについての責任は認められないというほかない。

(4) 抗弁(一)(消滅時効)

被告D川及び同E原は、(1)(2)の損害賠償請求権は、時効によって消滅した旨を主張する。

しかし、前記(二)(2)において述べたのと同様の理由で、右抗弁は認められない。

(四) 原告E田の(一)(7)及び(8)の平成四年六月から八月の貸金一二一万円及び一七〇万円の回復請求(別紙1③の請求関係の一部)

(1) 被告D川の責任の有無

(一)(7)(8)のとおり、原告E田は、B川やC原が独立し、B原に資金が入ってくるという被告D川の言葉を信じて金員を交付したのであるが、これらの言葉が虚偽であったことは前示のとおりである。

そして、このように虚偽を述べて金員の交付を受けることは、詐欺として違法であり、不法行為に当たる。

(2) 被告E原及び同A川の責任の有無

原告E田が平成四年六月から七月にかけての一二一万円を交付する前に、被告E原は、「自分もついこの前直接B川と話したが、一五〇〇万円をB原に支払って独立するつもりであることは確かである。銀行の都合で時間がかかっている。近いうちにお金が入ることは絶対間違いない。」と述べていることは前示のとおりであり、この事実を考慮するならば、被告E原は、単に被告D川の指示を受け、これに従っていたということを超えて、原告E田に対し、積極的に虚偽の事実を述べ、右金員についての被告D川の不法行為に加担したものといわざるを得ない。

しかし、被告E原は平成四年八月の一七〇万円の借入れについて、また被告A川は同年六月から七月にかけての一二一万円及び同年八月の一七〇万円のいずれについても、何らかの具体的な関与をしたとの事実が認められない。被告A川に対する信頼がなければ、原告E田がB原にこれだけ多額の金員を交付するようなことはなかったであろうという面があり、被告D川もそのことは熟知していたと考えられることをも併せて考慮しても、被告A川が、原告E田に対し、直接働き掛けるなどの事実がなく、かつ、被告D川との間で事前に共謀等があったとの事実を認めるに足りる証拠もないので、被告A川については、責任を肯定することはやはり困難であると考える。

よって、被告E原は、原告E田の平成四年六月から七月にかけての一二一万円の交付分についてのみ責任が肯定され、被告A川は責任を負わない。

(五) まとめ((三)及び(四)について)

よって、被告D川に対する五一七万円及び金員を交付した最後の日である平成四年八月二七日からの遅延損害金の支払請求、被告E原に対する三四七万円及び金員を交付した最後の日よりも後の日である平成四年八月二七日からの遅延損害金の支払請求は理由があるが、被告A川に対する請求は理由がない。

(六) 原告E田の慰謝料請求の可否(後記二のただ働きによるものを除く。)(別紙1⑧の請求関係)

前記のとおり、被告D川は、上司として自身を信頼する原告E田に虚偽の事実を告げて同原告との間に覚書まで作成し、これによって収入が保証されたと考えた同原告から、一二九万円余もの金員を騙し取るにとどまらず、原告E田がB原京都校に勤務し、被告D川からの過酷な送金要求に追われ、B原を倒産させては授業料を支払っている生徒を裏切ることになると考える余り、また疲労から、被告D川を疑うという正常な判断ができなくなっていたことにつけこみ、さらに五一七万円もの金員を騙し取った。しかも、原告E田及びC林が、被告D川の欺罔に気付き、ようやくの思いで、自ら英会話教室A沢(以下「A沢」という。)を設立し、B原京都校に対し授業料を前払していた生徒に対し、A沢で無料の授業をすることで生徒に応えようとしたところ、被告D川は、原告E田とC林のこのA沢の運営を妨害するなどの行為を行っていたが、本訴においては、被告D川は、京都校は原告E田に譲渡をしたものであるなどと、なおも虚偽の事実を言い募っている。そして、これらの金策に原告E田とともに奔走したパートナーとも言うべきC林は、平成五年七月に癌のために四二歳の若さで命を落とすに至った。

また、被告E原は、事情を知っていながら、(一)(7)のとおり虚偽事実を原告E田に告げて右のような被告D川の行為に加担した。

これらの事実によれば、原告E田は、前記の財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害を受けたと認めることができる。そして、右の損害は、前記の事情を総合的に考慮し、金銭によって評価するとすれば、被告D川が五〇万円、同E原が二〇万円とするのを相当と認める。被告A川については、証拠上は、金員交付の後の関与しかされていないので、金員交付については責任はないといわざるを得ない。

よって、標記の慰謝料請求は、被告D川及び同E原に対し、右の限度及び退職日よりも後の日である平成四年一〇月三一日から年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由がある。

(七) 原告E田の(一)(2)の預り金名目の金員交付についての被告D川の契約責任の有無(別紙1⑪の請求関係)

原告E田は、予備的に被告D川に対して預託金についての契約責任を請求しているが、主位的請求である不法行為請求が認められるので、原告A野についての該当箇所に記載のとおり、契約責任については判断をする必要がない。したがって、契約責任についての抗弁である清算の合意の成否(抗弁(二))についての判断も必要がない。

8  原告A田の交付金回復請求(別紙1②③⑧⑪⑫の請求関係)

(一) 金員交付の状況

(1) 入社

原告A田(当時は旧姓のA山)は、昭和五九年二月二日に新聞の求人広告で応募しE野インターナショナルに入社した。原告A田は、入社後の被告A川との触れ合いの中で同被告から精神面で援助を受けたように感じ、同被告に精神的に依存するようになっていた。原告A田は、被告A川が、折りに触れ被告D川を賞賛することから、次第に被告D川も信頼するようになった。

(2) 昭和六〇年三月の預託金一四二万円

被告D川は、昭和六〇年三月下旬、原告A田から預金額を聞き出した上、同原告に対し、「銀行なんかに預けておくより高い利子を付けてやるから俺に預けないか。会社で増やしてやるから。」と持ちかけた。原告A田は、これに応じることとし、同月二五日、E野インターナショナルのゼネラルマネジャー室で被告D川に対し、郵便貯金にしていた全金額一四二万円(別紙1②⑪の請求関係)を預けた。

(3) 平成四年八月二八日の貸金一二〇万円

原告A田は、平成二年八月以降、大阪校に赴任した。

被告D川は、平成四年八月二六日、原告A田に、「金が無くて困っている。九月七日にC原マネージャーから入る二〇〇〇万円で返すから、サラ金で金を借りてきてくれないか。」と頼んだ。

原告A田はいったんは断ったが、相談のため被告A川に電話をしたところ、同被告は、「社長(被告D川)があちこちに借金をしていることを承知でC原は二〇〇〇万円を出して横浜校を独立させると言っているから心配ない。あなたも社長に協力してあげて。」と述べた。

翌日(平成四年八月二七日)被告D川から原告A田に電話があり、被告A川から連絡を受けたことを伝えながら、「B原がA原相手の裁判に勝ったが、横浜と京都のビルの保証金で三〇〇〇万円支払ったのと、社会保険事務所に保険料を一気に二〇〇〇万円払って一時的にお金がない。九月七日に最優先で返すからお金を作ってきてくれないか。」と頼むので、原告A田は、嫌々ながら消費者金融(いわゆるサラ金)で借金をすることとしたが、サラ金に行く途中で被告D川にやっぱり嫌であると電話すると、「本社が潰れると大阪校も潰れるぞ。絶対に返す。一週間、二週間の辛抱だから、ガタガタ言わないで、協力しますと何で言ってくれないのか。」と怒鳴られた。そこで、原告A田は、同日結局サラ金で借りて、一二〇万円を送金した(第二の二2(六)(1))。

その夜、被告A川から原告A田に電話があり、原告A田は、「社長は一年かかっても二年かかっても、必ず返す人よ。」と言われた。

(4) 平成四年八月二八日から同月三一日の貸金八八万五〇〇〇円

さらに被告D川は、平成四年八月二八日から三一日にかけて、「三〇〇万円、四〇〇万円の小切手が回ってきた。」「電話代を支払わないと電話を止められてしまう。」「今日はB原の運命の日だ。七〇〇万円の小切手が来る。」などと述べて、借入れとその送金を原告A田に依頼してきた。そこで、原告A田は、二八日に二九万円、二九日に一万五〇〇〇円、三一日に五八万円(第二の二2(六)(2)から(4))をサラ金で借金して、被告D川に送金したが、これらの金は返済されなかった。

C原が二〇〇〇万円を入金する日であると原告A田が聞いていた平成四年九月七日にも何の連絡もなかったので、原告A田は、被告E原に連絡すると「入金が遅れているが、C原の相続分は兄が会社の退職金を前借りして払うことになり、会社の決済が遅れている。」と言われた。また、原告A田が、同月ころ、被告A川から電話を受けた際、被告D川に金を貸していることを告げると、被告A川は、原告A田が被告D川に貸している金はたとえ一万ずつでも自分が返済する旨を述べた。

(4) 退社

原告A田は、平成四年九月末ころから、京都校のC林から京都校の状況を知らされ、同人の勧めでC原とも連絡を取るようになり、被告D川が会社を倒産させるつもりで、その場合に地方の社員がどうなろうと顧みない様子であり、ここままでは大阪校も他校と同じことになってしまうと思うようになった。そして、従業員に借金をさせる会社に勤めていることを心配した家族の勧めもあり、原告A田は、同年一〇月一八日には騙されていたとはっきり気付き、B原を退職する意思を固めるとともに、同月にはB川と相談して大阪校を法人化して独立させることとした。原告A田はその後退職し、同月二二日ころ引越しをして二、三日後に、B川が、大阪校を、B林スクールという名称で法人化して独立させ、B原から切り離した。B原は、大阪校のスタッフ及び講師の給与、家賃、電気・水道代の支払を怠っていたので、B川がこれらの債務(総額八〇〇万円から九〇〇万円)を肩代わりした。

(二) 原告A田の(一)(2)の預託金一四二万円についての被告D川の責任の有無(別紙1②の請求関係)

(1) 不法行為の成否

原告A田は被告D川に言われるままに標記の金員を預けたが、その際の話と異なり、銀行金利より高い利息はおろか、何らの利息の支払もなく、管理状況も明らかにされないし、元本の返済もない。したがって、被告D川は、当初から返済の意思がなかったものであり、真意でない虚偽の事実を告げて、右金員を預託金名目で交付させたというべきであり、単なる金銭の預りにとどまらず、詐欺として不法行為に該当する。

よって、被告D川は、原告A田に対し、一四二万円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負う。

(2) 被告D川の主張に対する判断

被告D川は、右金員の交付時に返済の意思がなかったことを否認し、被告D川が右金員を受領したのは、当時原告A田の営業成績が悪く、コミッション収入が少なかったため、被告D川が生活費等を立て替えていたので、右金員をその埋合せとするためのものであった旨を主張する。

しかし、本件全証拠によっても、当時、被告D川が、原告A田の生活費等を負担していたと認めることはできない。よって、被告D川の右主張は認められず、他に前記(1)の認定を左右する事情もない。

(3) 抗弁(一)(消滅時効)の成否

被告D川は、右請求権は、時効によって消滅した旨を主張する。

しかし、本訴の提起の三年前に当たる平成三年五月ころは、原告A田は、被告らの言葉を信じ、大阪校において営業等に従事していた時期に当たることは前示のとおりであるから、原告A田は、この時点においては、未だ、自らが被告D川に騙されていることに気付いておらず、「損害及ヒ加害者ヲ知」っていたとはいえない。

よって、標記の抗弁は、認められない。

(三) 原告A田の(一)(2)の預託金一四二万円についての被告E原及び同A川の責任の有無(別紙1②の請求関係)

本件全証拠によっても、被告D川が原告A田から標記の金員を預かるに当たって、被告E原及び同A川がそれに共謀その他の関与をした事実は認められない。

よって、標記の請求は、理由がない。

(四) 原告A田の(一)(3)及び(4)の平成四年八月の貸金一二〇万円及び八八万五〇〇〇円についての被告らの責任の有無(別紙1③の請求関係)

(1) 被告D川及び同A川

被告D川及び同A川は、原告A田に右の貸金をさせる際に、C原が二〇〇〇万円をB原に支払って横浜校を独立させるので、原告A田への返済は確実である旨を伝えたことは前記のとおりである。しかし、C原は横浜校を独立させるための計画をしてはいなかった。また、「B原がA原相手の裁判に勝ったが、横浜と京都のビルの保証金で三〇〇〇万円支払ったのと、社会保険事務所に保険料を一気に二〇〇〇万円払って一時的にお金がない」という被告D川の説明はすべて虚偽であった。したがって、被告D川及び同A川は虚偽の事実を告げて原告A田に標記の貸金をさせたものであり、右両名の行為は違法であり、詐欺として不法行為に当たる。

よって、被告D川及び同A川は、原告A田に対し、二〇八万五〇〇〇円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負う。

(2) 被告E原

前記のとおり、被告E原は、原告A田の標記の金員の交付を行った後の平成四年九月七日に、原告A田に対し、「入金が遅れているが、C原の相続分は兄が会社の退職金を前借りして払うことになり、会社の決済が遅れている。」と述べている。そして、このような事実はなかったわけであるから、被告E原の右説明は悪質なものであるが、時期が貸金実行後のことであり、貸金実行時に被告E原が、被告D川と共謀したとか、この貸金に加担したといった事実を認めるに足りる証拠はない。

よって、被告E原はこれについて責任は負わないというべきである。

(五) 原告A田の慰謝料請求の可否(後記二のただ働きによるものを除く。)(別紙1⑧の請求関係)

前記認定事実によれば、被告D川及び同A川は、原告A田が被告D川及び同A川を上司として信頼していることを利用し、その貯金をすべて騙し取ったばかりか、原告A田が大阪校で勤務し、本部の状況が分からないことに付け込み、また、生真面目過ぎる性格であることを計算し、サラ金で借金をすることを渋る原告A田に対し、あたかも会社のためならそれも当然であるかのように述べてこれを強制し、その借入金を被告D川の借金の返済等に充てるなどしているのである。これによれば、原告A田は、前記の財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害を受けたと認めることができ、前記の事情を総合考慮し、これを金銭によって評価するとすれば、三〇万円を相当と認める。

よって、標記の請求は、被告D川及び同A川に対して三〇万円及びこれに対する原告A田が退職した日と認められる平成四年一〇月二一日から年五パーセントの割合による金員の支払を求める限度で、理由がある。

(六) 原告A田の(一)(2)から(4)の預り金・借金名目の金員交付についての被告D川の契約責任の有無(別紙1⑪⑫の請求関係)

原告A田は、予備的に被告D川に対して預託金及び貸金についての契約責任の履行を請求しているが、主位的請求である不法行為請求が認められるので、契約責任の有無については判断をする必要がない。したがって、契約責任についての抗弁である補填の合意の成否(抗弁(二))についての判断も必要がない。

9  原告B野の交付金回復請求(別紙1②⑤⑥⑧⑫の請求関係)

(一) 金員交付の状況

(1) 原告B野とB原との関係

原告B野は、被告D川の実の叔父に当たるところ、平成元年三月まで、伸縮管継手の製造等を行う株式会社C谷(以下「C谷」という。)の代表取締役であった。昭和六〇年ころ、被告D川から、B原を設立するに当たって取締役への就任を依頼され、原告B野はこれを承認した。当初は名目的な取締役であった。

原告B野は、平成元年三月に、被告D川の勧めもあって、C谷の工場を閉鎖することにし、同年七月までに同社の残務整理を行った後、平成元年七月ころ、D山システムに入社した。原告B野は、それ以来、日曜日及び祭日を除くほとんど毎日、同社に出勤し、マネジャー会議等の会議への出席、B原とD山システムのテレホンアポインターの勤務状況の管理、D山システムの事業計画の立案等を行っていた。給与は、被告D川と相談の上、月八〇万円と決められたが、原告B野の給与のみが高くならないよう、原告B野について六五万円、原告B野の妻であるB野三子について月一五万円とする形式が採られた。

原告B野は、平成四年八月三一日、D山システムを退職した。

(2) 預託金残金一八〇〇万円

イ 預託

被告D川は、昭和六三年夏ころから、原告B野に対し、「長い間頑張ってきたのだから、これからは楽しく過ごしたらよい。幸い自分の会社は景気が良く、金を預けてくれれば年二〇パーセントの利息を支払い、他の収入とも合わせて、元金を減らすこともなく安心して生活できる。」などと告げた。

原告B野は、その言葉を信じ、銀行の定期預金を解約し、平成元年四月一四日及び同月二七日に合計一九〇〇万円(第二の二2(七)(1))を、被告E原を通じて被告D川に預け、利息の先取分一〇〇万円を含めた趣旨で金額を二〇〇〇万円とし、被告D川名義の「借入金として」と記載された領収証を受領した。

ロ 一部返済

被告D川は、平成二年一二月二〇日、一〇〇万円を支払ったが、それ以外の返済をしていない(別紙1②の請求関係は、現実の授受金額一九〇〇万円の残額である一八〇〇万円に相当する。)。

(3) ミニスクール出資金名目の貸付

イ 二九〇万円の旧債権

原告B野は、昭和六〇年二月一九日及び同年九月二日、被告D川の勧めにより、同被告に対し、B田教育システムの株式を購入するための資金として合計二九〇万円を交付していたが、同社が昭和六一年に倒産したため、これを購入することができないままとなっていた。

ロ 九一〇万円の追加交付

被告D川は、昭和六三年二月ころ、原告B野に対し、「ミニスクールに出資してオーナーにならないか。」「元本は毎月二〇万円ずつ分割して返し、利息は年率一二パーセント支払う。」と告げたところ、原告B野は、これを信じ、右の二九〇万円と併せて出資を一二〇〇万円とする趣旨で、同年一二月二八日に九一〇万円を交付した。そして、被告D川は、同日付けで、貸付金額一二〇〇万円、元金は毎月末日に二〇万円の六〇回払、利息は年一〇パーセントを、元金弁済後に一括払とする「金銭貸借契約書」を作成し、原告B野と共にこれに署名押印した。

ハ ミニスクール計画についての虚偽

ところが、B原では、昭和六三年一二月末ころにはミニスクール開設の計画は中止されており、既設の五校のほかには新設の予定はなかった。

ニ 一部返済

被告D川は、一〇一六万二八三二円を支払ったが、それ以外の返済をしていない(別紙1⑤の請求関係は、残額である一八三万七一六八円に相当する。)。

(4) ゴルフ場改修資金名目の詐欺

イ 一八〇〇万円の貸金

被告D川は、平成二年ころ、原告B野に対し、「大阪の青年会議所での知合いであるD海秋夫(以下「D海」という。)が、グアム島で日本人に人気のある高山ゴルフ場を一〇億円で改修することを計画し、利息を二八パーセント払う約束で資金の提供を募っており、自分がその資金の調達の依頼を受けている。自分も三〇〇〇万円を出資するので、あなたも二〇〇〇万円を出してくれないか。」と告げた。原告B野は、既に多額の金員を貸しているのでそのような金はないといったんは断ったが、被告D川は、「ゴルフの会員権を担保にして借金し、借入利息はD海から送られる金で支払えばよい。元金は平成五年三月三一日に一括返済するから貸してほしい。」と依頼した。原告B野は、これに同意し、平成二年三月一九日、大信販(現在のアプラス)に被告D川と同道して、同社から一八〇〇万円の融資を受け、これを被告D川に交付した。被告D川は、原告B野に対し、平成四年五月ころには、右金員はD海に送金した旨を告げた。

ロ ゴルフ場計画についての虚偽

ところが、原告B野が、平成四年八月、D海に電話で確認したところ、同人は昭和六三年にはゴルフ場の仕事を止め、平成元年にはゴルフ場関係の会社の役員も辞任した旨を告げられた。そこで、原告B野が被告D川を追及したところ、被告D川は、平成四年九月八日、原告B野の自宅を訪れ、甥であるE本冬夫の立会いの下で土下座して原告B野に謝罪した。

ハ 一部返済

被告D川は、平成四年三月二〇日までに、原告B野に利息として七六一万円を支払ったが、それ以外の返済をしていない(原告B野についての別紙1⑥の請求関係は、残額である一〇三九万円に相当する。)。

(二) 原告B野の(一)(2)から(4)の交付金についての被告D川の責任の有無(別紙1②⑤⑥の請求関係)

(1) 被告D川の返済能力

まず、被告D川は、平成元年三月以降は、幸和や大新といういわゆる街の金融業者から頻繁にかつ数百万円から一〇〇〇万円単位で借入れを行っており、これらの業者への返済と借入れは、その後数年間にわたって継続され、従業員からの社内預金名目で預かった金員もその弁済に充てており、被告D川の資産状況は、自らの派手な生活を維持しあるいは何らかの出費をするため、かなり悪化していると推認される。

したがって、原告B野に対し、年率で二〇パーセントもの利息を保証できるような状態ではなかった。

(2) 虚偽事実の告知と不法行為

そのような状況であるにもかかわらず、自分の会社の景気が良いかのように告げ、その返済が確実であるかのように原告B野を誤信させて金員の交付を受けることは違法であり、詐欺として不法行為に当たる。

また、前記認定事実のとおり、昭和六三年一二月末ころには、ミニスクール開設の計画は中止されていたにもかかわらず、被告D川は、これがあるような虚偽を告げてきた。さらに、D海は、昭和六三年にはゴルフ場の仕事を止めていたにもかかわらず、同人がゴルフ場の改修を行う予定があるかのように、被告D川は、虚偽を告げていた。

そして、これらの事実を誤信した原告B野から被告D川は金員の交付を受けているのであるから、被告D川の右の行為は違法性を有し、詐欺として不法行為に当たる。

(3) 損害額

そして、右不法行為によって原告B野が受けた損害額は、交付した金員の額から、受領を自認する金額を控除したものである。

(三) 原告B野の(一)(2)から(4)の交付金についての被告E原及び同A川の責任の有無(別紙1②⑤⑥の請求関係)

次に、被告E原及び同A川について見ると、本件全証拠によっても、被告D川において原告B野から右金員の交付を受けることについて、被告E原及び同A川が関与したことを窺わせる事情は認められない。

よって、被告E原及び同A川に関する標記の請求は認められない。

(四) 抗弁(一)(消滅時効)の成否

被告D川は、右(二)の請求権は、それぞれ、金員を交付した日から三年が経過したことにより時効により消滅した旨を主張する。

しかし、前記認定事実によれば、原告B野は、ミニスクールの出資金として金員を交付した後も、平成元年四月二七日及び同二年三月一九日に金員を交付していることは前示のとおりであり、少なくとも最後に金員を交付した平成二年三月ころまでは、自らが騙されていることを知っていなかったと認められる。そして、前記認定事実によれば、平成四年八月、原告B野は、ゴルフ場の改修の話が虚偽であることを突き止め、被告D川を追求して虚偽であることを認めさせ、謝罪をさせるに至っているのであるから、このゴルフ場の改修の話が虚偽であることを突き止めた平成四年八月ころに初めて前記のすべての金員について、騙されていたことを知り、「損害及ヒ加害者ヲ知」った(民法七二四条)と認められる。そして、原告B野は、その後三年を経過しない平成六年五月三〇日に本訴を提起していることが記録上明らかであるから、右請求権は、いずれも時効によっては消滅していない。

よって、標記の抗弁は認められない。

(五) 原告B野の慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

(1) 原告B野は、甥である被告D川から、右のとおりの金員を騙し取られたことにより、非財産的損害を被った旨を主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、原告B野は、甥である被告D川を幼少のころから知っており、同被告の母から、被告D川は金銭にだらしがなく、後始末が大変なので、金を貸さないでくれと言われており、その性格を知悉していたと認められる。それにもかかわらず、原告B野が被告D川に多額の金員を交付したのは、自ら高い利率や利潤に惹かれ、これにいわば投機的に金員を交付したものであると推認できる。この点で、他の原告が、確実に元本が保証されるとの自らの上司の言葉を信じて、社内預金名目で金員を交付したのとは事情が全く異なる。また、原告B野は、被告D川にどのようなことも言うことができる立場にあったのであり、実際に、前記のとおりゴルフ場の出資の話が虚偽であることが分かった際には、被告D川に土下座をさせて謝罪させている。

(2) これらの事情を総合考慮するならば、原告B野の受けた損害は、前記の財産上の損害に加えて精神的な損害を賠償させる必要のあるものと認めることはできない。

よって、標記の請求は、理由がない。

(六) 原告B野の(一)(2)から(4)の交付金についての被告D川の契約責任の有無(別紙1⑫の請求関係)

主位的請求である不法行為責任が認められるから、予備的請求である契約責任について判断する必要はない。金額的に見ると予備的請求の方が大きいにもかかわらず、立証の容易さなどの点に照らして、当事者が順位を付けた以上、右のとおりに解するのが相当である。

したがって、予備的請求に関する抗弁である清算契約及び弁済の成否及び内容についても検討する必要はない。

(七) まとめ

よって、原告B野の被告D川に対する預託金及び貸金名目の詐取に基づく請求(別紙1②⑤⑥の請求関係)は理由があるが、被告E原及び同A川に対する同請求は理由がない。

10  原告C山の交付金回復請求(別紙1①④⑧⑪の請求関係)

(一) 金員交付の状況

(1) 原告C山とB原等

原告C山は、昭和五七年一月一六日から同五八年九月までは日本D田で、同年一〇月から同六〇年三月まではE野インターナショナルで、同年四月から同年一二月まではB原で、同六一年一月から同六二年四月までは再びE野インターナショナルで、同年五月から平成二年九月までは再びB原で、平成二年一〇月からはD山システムで、稼働していた。

(2) 被告D川の働き掛け

原告C山は、日本D田に正式に採用される前である昭和五六年一二月から同五七年一月までの間、三、四回にわたって、被告D川と食事をした。その際、被告D川は、原告C山に対し、「日本D田は週給かつ完全フルコミッション制で、やったらやった分だけ収入になる。」「今持っている貯金を会社に預けて無いものとして必死でやらないか。ハングリーな奴ほど成功する。ただ、収入がないと安心して仕事ができなくなるので、アパート代、税金、毎日の活動費は会社で面倒を見てやる。金の管理は会社でしてやる。社内預金しておいてやる。売上成績が悪く食べられないときもきちんとしてやるから。」などと語った。

(3) 通帳、印鑑及び四三万円の預託

原告C山は、被告D川の右の言葉を信じ、自分をハングリーな気持ちにすることが大切であると考え、昭和五七年一月、一万円を預金してD田からの週給コミッションの振込用の口座を開設し、他の預金口座から一五六万円を引き出し、さらに手持ちの五万円を追加して、これらの金員(合計額一六一万円)を前記週給コミッションの振込用の口座に預け入れ、右口座の通帳と印鑑及びキャッシュカードを被告D川に預けた。

さらに、原告C山は、昭和五七年一月二八日に一四万円を、同年二月九日に二九万円を被告D川に預けた(結局、このときまでに原告C山が被告D川に管理を委ねた金員の総額は二〇五万円となる。)。

原告C山が被告D川に通帳等を預けたのは、社内預金とする趣旨ではなく、自らのコミッションを被告D川に管理してもらう目的であった。

(4) 無断引出し

原告C山は、被告D川に不信感を持つようになり、右の通帳等の返還を何度も求めたが、同被告はなかなか応じなかった。そのため、原告C山が、平成四年八月一七日に退職した後である同年九月一四日、右の通帳を手に入れるため、銀行に紛失届を提出して通帳及びキャッシュカードの再発行を受けたところ、右口座には残高が三九万六五九三円しかなく、二〇五万円との差額に当たる一六五万三四〇七円(別紙1①の請求関係に相当する金員)は、原告C山に無断で引き出されていた。

(5) コミッションの不払

さらに、原告C山は、昭和五七年二月から平成元年一二月までの間、被告D川に、日本D田、E野インターナショナル及びB原から振り込まれるコミッションの管理を委ねていたが、その間、二六五八万七五二〇円のコミッションが原告C山あてに支払われていたにもかかわらず、原告C山は、被告D川から、一八一五万六一七三円の支払を受けているにすぎず、その差額に当たる八四三万一三四七円(別紙1①④の請求関係)は支払われていない。

(二) 原告C山の(一)の預金口座からの無断引出しについての被告D川の責任の有無(別紙1①④の請求関係)

(1) 不法行為該当性

前記認定のとおり、原告C山は、自らのコミッションを被告D川に管理してもらう目的で、コミッションの振り込まれる通帳及び印鑑を被告D川に預けたのであり、そのことは被告D川も十分承知していたはずである。ところが、右通帳の取引経緯を見ると、その残高は、その間の多数回の入金にもかかわらず、常に低い残高しかなく、本件全証拠によっても、被告D川が、右の通帳から引き出したコミッションを、原告C山のために管理していた事実は認められない。

したがって、被告D川は、原告C山から右通帳の交付を受けた当初から、そのコミッションを管理する意思はないのに、その意思があるかのように虚偽を述べて通帳を管理し、その間に振り込まれた金員を流用したものといわざるを得ない。そうすると、右の無断流用は違法であり、不法行為に該当するものであり、原告C山は、右不法行為によって、(一)(4)及び(5)の金員(別紙1①④の請求関係)を喪失する損害を被ったというべきで、被告D川は、詐欺をする意思はなかった旨を主張するが、通帳における金員の出し入れが物語る右無断引出しとその無断流用の事実を否定する事情はない。

よって、標記の請求原因事実は、認められる。

(2) 抗弁(一)(消滅時効)の成否

被告D川は、(一)の損害賠償請求権のうち、(4)の一六五万三四〇七円(別紙1①の請求関係)については不法行為の時期である昭和五七年二月九日ころから、(5)のコミッション不払分(同④)については、昭和五七年ころから平成元年一二月二四日までの日から三年が経過したことによって、時効によって消滅した旨を主張する。

しかし、原告C山は、平成四年八月に退職した後に、コミッションの振込用通帳の再発行を受けるまでは、自分の預けた金員がどのようになっているかについては分からず、自分が騙されているかどうかについては知らなかったことは前示のとおりである。したがって、少なくともこの時点までは、原告C山が、被告D川による不法行為による「損害及ヒ加害者ヲ知」っていたとは認められない。そして、原告C山は、右の時点から三年が経過する前である平成六年五月三〇日に本訴を提起していることは、記録上明らかである。

よって、標記の抗弁は、認められない。

(三) 原告C山の慰謝料請求の可否(後記二のただ働きによるものを除く。)(別紙1⑧の請求関係)

前記認定事実によれば、原告C山が、その主張に係る財産的損害を受けたのであるが、原告C山の主張に係る標記請求原因に係る損害は、本件全証拠によっても、右の財産的損害の賠償によっては賄うことのできない性質のものであるとまでは、認めることができない。

よって、その余の点について検討するまでもなく、標記の請求は、理由がない。

(四) 原告C山の(一)の預り金についての被告D川の契約責任の有無(別紙1⑪の請求関係)

主位的請求である不法行為責任が認められるから、予備的請求である契約責任について判断する必要はない。したがって、予備的請求に関する抗弁である補填及び清算の合意の成否(抗弁(二))についても検討する必要はない。

二  給与を支払う意思なく働かせた点の責任の有無

1  問題の所在及び検討の手順

原告らは、被告らが、原告D原、同E田、同A田及び同C山を、給与を支払う意思なく働かせ、別紙1⑦欄のとおりの未払給与分の損害を与えたことが、詐欺として不法行為に当たると主張する。

この点につき、被告らは、雇用関係の紛争は、原則として契約関係で処理すべきであると主張する。

まず、会社の代表者ではない者が、当該会社が賃金を払う旨を労働者に誤信させて働かせた場合には、騙して労働力の提供をさせたのであるから、その者について不法行為が成立することになると解される。

次に、会社の代表者が、真実と異なり当該会社に賃金を支払う意思があると労働者に誤信させて働かせた場合は、労働者は、会社との就労契約に基づき稼働したのであるから、右の労働者は、就労契約の当事者である当該会社に対して就労契約上の賃金債権を有する。しかし、この場合において、会社代表者の行為は、会社の機関の行為としての側面と、個人の行為としての側面の二面性を有するから、会社が責任を負担することのほかに、代表者個人について不法行為責任が成立し、被害を受けた労働者は、会社に対しても、行為者個人に対しても責任を求めることができると解されるのである。被告らの主張は採用することができない。

そこで、以下、被告らが、前記の各原告について、給与を支払う意思なく働かせた事実があるか、右事実があるとして各原告の被った損害を金額に評価するといくらとなるかについて、個別に検討することとする。

2  原告D原の未払給与等の請求(別紙1⑦⑧の請求関係)

(一) 未払給与についての被告D川の責任の有無(別紙1⑦の請求関係)

(1) 事実の経緯

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

原告D原は、父を亡くした昭和六一年四月二三日ころ、被告D川との間で、手取りで一八万円、基本給で二一万円程度の固定給で働く旨の合意をした。

ところが、平成元年からは、前記の利息の名目で母に支払われた金額である約四万円が、原告D原の給与から差し引かれるようになり、さらに、何の説明もなく、平成二年には、基本給が一二万円まで引き下げられた。平成二年一〇月ころからは、行動費という名目で、週二、三万円が支払われるほか、給与は支払われなくなった。原告D原は、被告D川に抗議したが、同被告は、「待っていろ。」「今細かいことをごちゃごちゃ言うな。」と述べるのみで、取り合おうとしなかった。平成四年四月ころからは、日々の交通費(営業に行く当日の電車代及びバス代等)すらも支払が滞るようになった。

(2) 不法行為の成否と損害

これらの事実及び前記一6(一)における認定事実によれば、被告D川は、原告D原に対し、手取りで月当たり一八万円の給与を支払う旨を告げ、その旨原告D原を誤信させ、同原告を平成二年一〇月から同四年八月までの二三か月の間働かせながら、合意どおりの給与を支払わなかったのである。しかも、被告D川は、原告D原からの抗議があったときに不払について虚偽事実も織り交ぜ何らきちんとした理由を説明しておらず、いずれ支払ができる旨を伝えて、業務を継続させていること、この点は後記3から5の原告らの場合も同じであること、従業員の固定給について支払を怠ることとなったのは、原告D原だけではなく後記の3から5の原告らに共通して平成二年八月ないし九月ころからであること、それまでも、B原における被告D川の経営方法や帳簿の管理には公私混同したすざんな点が多くみられること、以上のような諸事情からすると、被告D川は、遅くとも平成二年八月ないし九月ころからは、B原の経営を立て直すこと及び従業員に給与を支払うこともかなり困難であるとの認識を有しており、それにもかかわらず、そのことを秘すことにより、給与を不払としながら、従業員を働かせるだけ働かせることとしたものということができる。したがって、右の行為は違法性を有し、不法行為に当たる。

そして、この場合の原告らの損害額は、当該原告の逸失利益を基準として計算されるべきものであると解されるところ、原告D原の主張する被告D川約定の金額(手取額で月当たり一八万円)は、社会通念上相当な範囲内にあると認められるから、これを基準に逸失利益を算定するのが相当である。そこで、右の金額に稼働期間である二三か月を乗じ、これから原告D原が受領を自認する三一九万一一九二円(B原からの月当たり一二万円の行動費名目の給与と労働福祉財団が支払った四三万一一九二円の合計額)を控除すると、九四万八八〇八円となるから、右金額が、原告D原の損害額と認められる。

(3) 被告らの主張に対する判断

被告らは、原告D原が、フルコミッションの営業に従事していたのであり、固定給ではなかったと主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、B原には給与台帳が存在しており、これらには、原告D原に対し、平成二年一二月ころは基本給が一二万円、給与総額が二一万三一五〇円、平成三年一二月ころは、基本給が一一万円、給与総額が一五万八六五〇円支払われるべきことが記載されているとともに、被告D川も、これらの給与台帳が、固定給を前提として作成されたものであることは認めている。被告D川は、右給与台帳が、従業員に社会保険を付けるため、対外的に固定給であると装うため便宜上作成したものにすぎない旨を供述する。確かに、これらの給与台帳は、そのとおりの金額が従業員に支払われていないという意味では仮装のものではあるが、被告D川が主張するような事実のみをもって原告D原が固定給であったことまで否定することはできない。かえって、被告らは、原告D原が昭和六一年四月から同六二年二月までの間、内勤であったことが記載されている証拠(甲D九)から、「内勤」の文字をあえて抹消してコミッションが零であった旨を記入し、平成八年四月二二日付け準備書面に添付して当裁判所に提出していたのであるが、このことから、右の期間において原告D原が固定給であったことを認識していたと推認できる。

また、B原は、平成二年ころ、原告D原の給与を下げているが、当時、原告D原が、いろいろ被告D川に陳情しても、全く耳を貸そうとしなかったことは前示のとおりである。これらの事実によれば、原告D原の逸失利益が、前記認定事実を下回るものであるとは認められない。

以上によれば、被告D川の主張は、採用できない。

(4) まとめ

よって、未払給与に係る損害賠償請求(別紙1⑦の請求関係)は、九四万八八〇八円及びこれに対する平成四年八月一七日(原告D原がB原を退職した日)から年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度において、理由がある。

(二) 被告D川に対する慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

原告D原は、昭和五五年以来、長期にわたって被告D川の部下として働いてきたにもかかわらず、被告D川は、原告D原に虚偽事実を告げて二三か月もの間低い給与で働かせ、その間には交通費すらも支払わない時期もあり、せめて交通費くらい出してほしいという原告D原の懇請に耳を貸さず、一度は唾を吐きかけることすらしている一方で、自分は婚約者である被告A川と派手な生活をし、高価な犬を衝動買いするなどしている。これによれば、原告D原は、前記の財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害を受けたと認めることができる。そこで、その損害を金銭によって評価するならば、原告D原は、B原が給与を支払うことができないかもしれないとある程度の段階で気付いていたはずであり、その段階で退職することもできなかったとまではいえないと認められることを含め、前記の事情を総合的に考慮し、五〇万円を相当と認める。

よって、被告D川に対する慰謝料請求(別紙1⑧の請求関係)は、五〇万円及びこれに対する平成四年八月一七日(原告D原がB原を退職した日)から年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度において、理由がある。なお、前記一6(五)のとおり原告D原の交付金回復請求関係では慰謝料請求は認められない。

(三) 未払給与等についての被告E原及び同A川の責任の有無(別紙1⑦⑧の請求関係)

前記認定事実によれば、被告E原はその経理事務を通じて、また被告A川は同D川との個人的な親密度を通じて、遅くとも平成二年八月ないし九月ころには、被告D川のB原における基本的な営業方針は掌握していたということができる。そして、このころの被告D川の基本方針は、前記のとおりB原の立て直しが極めて困難であり、B原への入金は、原告D原ら従業員の給与に充てることはできる限り避け、被告D川の借金に返済することに充てるなどとするというものであり、被告E原及び同A川はこれを認識しながら、これを是正しないばかりかこれに包括的に協力していたと認めることができる。すなわち、被告E原についていえば、従業員の固定給の支払について実態と異なる帳簿の作成を行い、被告A川についていえば、出社しないにもかかわらず自身は役員報酬を受領し、不安になって相談に及ぶ社員(例えば原告E田及び同A田)に対して虚偽の事実を告げて、引き続き給与不払のまま労働を継続させていたものである。そして、従業員の誰のどの期間のどの給与の不払についての協力という具体的な認識までがなくても、理由を秘して給与を不払として働かせ、その労働の結果を取得するという不法行為とそれへの加担の内容は共通しているので、被告E原及び同A川は、右の不払について、被告D川と同じ責任(慰謝料の支払義務を含む。)を負うと解するのが相当である。

よって、標記の請求は、前記(一)及び(二)において認めた被告D川の支払義務と同額の金員を求める限りにおいて、理由がある。

3  原告E田の未払給与等の請求(別紙1⑦⑧の請求関係)

(一) 未払給与についての被告D川の責任の有無(別紙1⑦の請求関係)

(1) 事実の経緯

前記一7(一)における認定事実、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

原告E田は、昭和五九年一〇月二九日、被告D川との間で、フルコミッションの下でも収入が安定するよう、その収入を被告D川に保証してもらう旨の覚書を締結したが、それから一か月も経たない同年一一月二二日、被告D川から、「A林が明日で辞める。E川を京都に行かせる。君は明日から営業をしないでセクレタリーとして仕事に就くように。」と言われ、内勤の仕事に移った。それ以来、月払いの固定給の仕事となり、平成二年八月ころは、給与として二〇万円(手取りで一七万円)のほか、交通費が支払われていた。ところが、同年九月からは、月給制から金額の不明確な週給制となり、週当たり一、二万円(月当たり平均八万円未満)が支払われるようになった。そのとき、被告E原は、「理由はD川から後日説明がある。」と原告E田に告げたが、結局被告D川からの説明はなかった。週給になった後、被告D川は、原告E田に対し、今は給与が減少しているけれども、この状態はしばらくのことで、そのうち二〇から三〇万円以上の給与を受領できるようになるから、もう少しの辛抱であると何度か話した。結局、原告E田は、平成四年一〇月に退職するまで、当初の約定であった月給が支払われることはなかった。

(2) 不法行為の成否と損害

前記認定事実及び右の事実によれば、被告D川は、京都校の運営については一顧だにせず、従業員には交通費すらも支払おうとしなかったこと、他方で自分は派手な生活をしていたことが認められ、被告D川が、B原の経営者としての責任を自覚していたとは到底いえない。そして、被告D川が、原告E田に対し、手取りで一七万円の給与を支払う旨を告げ、その旨原告E田を誤信させ、同原告を平成二年九月から平成四年一〇月までの二六か月の間働かせながら、合意どおりの給与を支払わなかったのである。しかも、原告D原についての該当箇所で判示したとおり、被告D川は、従業員に給与を払うことが極めて困難であるという認識を持っていたのであるから、右の行為は不法行為に当たる。

そして、この場合の原告E田の損害額は、同原告の逸失利益を基準として計算されるべきものであると解されるところ、原告E田の主張する被告D川約定の金額(手取額で月当たり一七万円)は、社会通念上相当な範囲内にあると認められるから、これを基準に逸失利益を算定するのが相当である。そこで、右の金額に稼働期間である二六か月を乗じ、これから原告E田が受領を自認する一九〇万八〇〇〇円と労働福祉財団が支払った八八万円を控除すると、一六三万二〇〇〇円となるから、右金額が、原告E田の損害額と認められる。

(3) 被告らの主張に対する判断

被告らは、原告E田が、フルコミッション制の従業員であったと主張する。しかし、《証拠省略》によれば、原告E田は、給与の未払を主張する期間中は、フルコミッション制で働いていた平成二年五月までの間受領していたコミッションシートを、その後は受領していないことが認められ、これによれば、原告E田は、固定給であったと推認できる。

(4) まとめ

よって、未払給与に係る損害賠償請求(別紙1⑦の請求関係)は、一六三万二〇〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月三一日(原告E田がB原を退職した日よりも後の日)から年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度において、理由がある。

(二) 被告D川に対する慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

また、前記認定事実によれば、被告D川は、原告E田に虚偽を告げて長期間働かせ、京都校の運営について一顧だにせず、A沢の運営の妨害すら行っており、原告E田は、財産的損害の賠償によっては賄うことのできない非財産的損害を受けたと認められる。そして、《証拠省略》によれば、原告E田は、京都に生活の本拠を持ち、生徒を放置して退職することが困難な状況にあったとの事情が認められ、前記認定事実及び右の事情を総合的に考慮して右損害を金銭によって評価するならば、五〇万円が相当である。

よって、前記一関係において認められる分以外に、慰謝料請求(別紙1⑧の請求関係)は、五〇万円及び原告E田が退職した日よりも後と認められる平成四年一〇月三一日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由がある。

(三) 未払給与等についての被告E原及び同A川の責任の有無(別紙1⑦⑧の請求関係)

被告E原及び同A川は、原告D原について2(三)において述べたのと同様の理由により、(一)の未払給与請求について、被告D川と同じ責任(慰謝料の支払義務を含む。)を負うと解する。とりわけ、原告E田は、前記認定のとおり、被告A川に心を許し、平成四年ころも被告A川と電話で何回も話しており、平成四年九月ころに被告D川及び同A川に疑念を持った際には、被告A川に電話をして確認し、このとき、被告A川は、原告E田に、被告D川を信じて頑張ってほしい、被告D川に協力してほしい旨を述べており、原告E田を働かせるため、説得しようとしていることは前示のとおりである。したがって、原告E田が、被告A川のこの言葉をその通りに受け入れず、結局、その約一か月後には、B原を退職していることが認められるとしても、被告A川が被告D川と給与の不払につき加担していたことは、一層明らかである。

よって、被告E原及び同A川は、被告D川と同じ責任(慰謝料の支払義務を含む。)を負う。

4  原告A田の未払給与等の請求(別紙1⑦⑧の請求関係)

(一) 未払給与についての被告D川の責任の有無(別紙1⑦の請求関係)

(1) 事実の経緯

前記認定事実、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

原告A田は、平成二年三月までは、コミッションによる収入を得ていたが、B原がA原の教材販売が打ち切られ、英会話教室を主体として経営するようになってからは、電話で約束して客を教室に呼ぶ仕事をするようになり、そのため、歩合制から固定給の適用となった。原告A田は、平成二年八月一日に大阪校に赴任してからは、固定給で、手取り三〇万円とすることが約束されていた。ところが、赴任から一か月ほどして、行動費の名目で週当たり一、二万円が支払われることになった。このとき、被告D川に、週払いの方が収入が増える旨を説明されたが、実際に減収となり、この状態は、原告A田が退職した平成四年一〇月二一日まで続いた。被告D川は、「今は少ないが、足りない分は貯金していると思って、我慢してほしい。後でまとめて払ってやる。」と話していたので、原告A田は、支払われていない部分については、きちんと貯金されていると信じていた。また、被告A川は、右のような事情を知りながら、折りに触れ、原告A田を激励し、弱気になり退職したいと思う原告A田を働かせ続けた。また、被告E原も、B原に入金があっても、なるべく従業員の給与に支払われないように事務手続を進めていた。

(2) 不法行為の成否と損害

右の事実によれば、被告D川は、原告A田に対し、月三〇万円の給与を支払う旨を告げ、その旨原告A田を誤信させ、同原告を平成二年八月から平成四年一〇月までの二七か月の間働かせながら、合意どおりの給与を支払わなかったのである。そして、原告D原についての該当箇所で述べたとおり、平成八年ころには被告D川は給与の支払が極めて困難であることを認識していたのであるから、右の行為は不法行為に当たる。そして、この場合の原告A田の損害額は、同原告の逸失利益を基準として計算されるべきものであると解されるところ、原告A田の主張する被告D川約定の金額(月当たり三〇万円)は、社会通念上相当な範囲内にあると認められるから、これを基準に逸失利益を算定するのが相当である。そこで、右の金額に稼働期間である二七か月を乗じ、これから原告A田が受領を自認する金額(別表5)及び労働福祉財団が支払った八八万円を控除すると、一八六万九七九八円となるから、右金額が、原告A田の損害額と認められる。

(3) 被告らの主張に対する判断

被告D川は、原告A田が、フルコミッションの営業に従事していたのであり、固定給ではなかったと主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、コミッション制であることを前提とするコミッションシートは、右の期間について原告A田に交付されておらず、大阪校に関する報告資料には、原告A田が月三〇万円の固定給であることが明記されており、被告D川は、これが虚偽のものでないことを、曖昧ながら認めている。よって、被告D川の右主張は採用できない。

(4) まとめ

よって、未払給与に係る損害賠償請求(別紙1⑦の請求関係)は、一八六万九七九八円及びこれに対する平成四年一〇月二一日(原告A田が退職した日)から年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度において、理由がある。

(二) 被告D川に対する慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

また、前記認定事実によれば、被告D川は、原告A田に虚偽を告げて長期間働かせ、その間、大阪校で奮闘している原告A田が経済的な援助を求めても、これに対しては十分な措置を講じようとしない一方で、自らは、従前どおりの派手な生活を続けていたものであり、これにより、原告A田は、前記の財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害を受けたと認められる。そこで、その損害を金銭によって評価するならば、原告A田は、B原が給与を支払うことができないかもしれないとある程度の段階で気付いていたはずであり、その段階で退職することもできなかったとまではいえないこと、大阪校については、実質的な責任者としてある程度の裁量があったと思われること、反面大阪校を放り出せないとの心情も理解できることを含め、前記の事情を総合的に考慮するならば、三〇万円を相当と認める。

よって、被告D川に対する慰謝料請求(別紙1⑧の請求関係)は、前記一関係において認められる分以外に、右の三〇万円及びこれに対する平成四年一〇月二一日(原告A田がB原を退職した日)から法定の年五パーセントの割合の遅延損害金の支払を求める限度で、理由がある。

(三) 未払給与等についての被告E原及び同A川の責任の有無(別紙1⑦⑧の請求関係)

被告E原及び同A川は、原告D原について前記2(三)において述べたのと同様の理由により、(一)の未払給与請求について、被告D川と同じ責任を負うと解する。とりわけ、被告A川は、前記のとおり、上司として自身を信頼している原告A田を、折りに触れ激励し、弱気になり退職したいと思う同原告の気持ちを前向きに奮い立たせて働かせ続けたのであるから、被告A川が給与不払について同D川に加担していたことは、一層明らかである。

よって、被告E原及び同A川は、被告D川と同じ責任(慰謝料の支払義務を含む。)を負う。

5  原告C山の未払給与等の請求(別紙1⑦⑧の請求関係)

(一) 未払給与についての被告D川の責任の有無(別紙1⑦の請求関係)

(1) 事実の経緯

前記認定事実、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

原告C山は、平成二年五月までは歩合制による仕事に従事していた。被告D川は、平成二年四月一六日、原告C山に対し、「六月から月給制とする。住居費として六万六九五〇円、英会話レッスン代として月額三万四〇〇〇円を含んで、グロスで四〇万円の給与を支給する。」と告げ、原告C山は、この申し出を受けた。しかし、原告C山は、同年六月から八月分については、手取金額で三九万九九二〇円が支払われたが、その後は、行動費名目での不定期の分割支給がされただけであり、英会話レッスン代も、その後何度か支払が行われず、原告C山が支払うことになった。原告C山は、同年一〇月、被告D川に給与が支払われない理由を尋ねたところ、被告D川は、「A原の問題で四〇〇〇万円かかって苦しい。」「一一月くらいからは元どおりに月給を出せると思うからしばらく辛抱してほしい。」旨を告げた。しかし、その後も、平成四年八月一七日に原告C山が退職するまで、右の約定どおりの月給が支払われることはなかった。また、被告D川は、原告C山のコミッションを入金後直ちに引き出し、これを別途管理していた形跡はない。

(2) 不法行為の成否と損害

前記認定事実によれば、被告D川は、原告C山に対し、支払が極めて困難である状況下で、一定の賃金を支払う旨の虚偽の事実を告げてその旨誤信させながら、これを支払わず、同原告を働かせたのであるから、右の行為は詐欺として違法性を有し、不法行為に当たる。そして、この場合の原告の損害額は、同原告の逸失利益を基準として計算されるべきものであると解される。《証拠省略》によれば、原告C山は、この場合の原告C山の損害額を、別表6のとおり算出したと認められるが、右算出結果は、前記認定事実と矛盾がなく、本件全証拠によっても、これを覆すに足りる事情は認められない。そして、右の算出経過において示されている原告C山の報酬金額は、社会通念上相当な範囲内にあると認められるから、これを逸失利益と解するのが相当である。

そして、この金額(三一八万二一五六円)から、原告C山が労働福祉財団から受領したことを自認する金額(八八万円)を控除した金額(二三〇万二一五六円)が、原告C山の損害額であると認められる。

(3) 被告らの主張に対する判断

被告D川は、原告C山から不足分の給与の支払を求められた際、まともには取り合おうとはしなかったことは前示のとおりである。このような点を考慮するならば、被告D川が、原告C山に賃金を支払う意思があったとは認められず、また、原告C山が、行動費限りの給与であることを甘受していたものとも認められない。

また、被告D川は、原告C山が、フルコミッションの営業に従事していたのであり、固定給ではなかったと主張する。しかし、《証拠省略》によれば、コミッション制であることを前提とするコミッションシートは、右の期間について原告C山に交付されていない。よって、被告D川の右の主張は、採用することができない。

(4) まとめ

よって、未払給与に係る損害賠償請求(別紙1⑦の請求関係)は、理由がある。

(二) 被告D川に対する慰謝料請求の可否(別紙1⑧の請求関係)

前記一10(一)及び右(一)において認定した事実並びに《証拠省略》によれば、原告C山は、長期にわたり、正規の賃金の支払を受けることなく、行動費と呼ばれる最低限の生活費のみを支給される状態で稼働させられ、この間、社員に給与を支払っていないのにパートを追加募集しようとした被告D川に、現在はそのような状況ではない旨を告げたところ、怒鳴られるなど、不当な取扱いを受けてきたと認められ、これらの事実によれば、原告C山は、前記の財産的損害の賠償によっては賄うことのできない精神的損害を受けたと認められる。

そこで、その損害を金銭によって評価することとするが、原告C山は、B原が給与を支払うことができないかもしれないということをある段階で気付いていたはずであり、その段階で退職することもできなかったとまではいえないこと、原告C山は、かなり早期の段階(昭和六三年一二月)で、被告D川に対し女性問題で不信を持つようになり、通帳等を返還するように申し入れるなどしていることを含め、前記の事情を総合的に考慮するならば、二〇万円を相当と認める。

よって、被告D川に対する慰謝料請求(別紙1⑧の請求関係)は、二〇万円及びこれに対する平成四年八月一七日(原告C山がB原を退職した日)から年五パーセントの割合の遅延損害金の支払を求める限度において、理由がある。なお、前記一10(三)のとおり原告C山の交付金回復請求関係では慰謝料請求は認められない。

三  結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求のうち、次の部分は理由がある(概略は別紙2のとおりである。)。

1  原告A野が被告らに対して連帯して一七五万八二九七円及びこれに対する平成四年五月七日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分

(右一七五万八二九七円は第三の一3(二)(5)の社内預金名目の交付金残金であり、右平成四年五月七日は原告A野が複数回に分けて交付した金員の最後の分を交付した日である。)

2  原告B山が被告らに対し連帯して八〇六万〇九三八円及びこれに対する平成四年三月三一日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分

(右八〇六万〇九三八円は第三の一4(二)の社内預金名目の交付金残金であり、右平成四年三月三一日は原告B山が複数回に分けて交付した金員の最後の分を交付した日である。)

3  原告C川が被告D川に対し三九〇万円及びこれに対する平成二年七月二五日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分

(右三九〇万円は第三の一5(2)の社内預金名目の交付金残金であり、右平成二年七月二五日は原告C川が交付した日である。)

4  原告D原が

(一) 被告D川に対し六四四万八八〇八円及びうち五〇〇万円に対する昭和六一年七月三日から、うち一四四万八八〇八円に対する平成四年八月一七日から各支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分

(右六四四万八八〇八円は、第三の一6(二)(1)の増資名目の交付金五〇〇万円、第三の二2(一)(4)の未払給与に係る損害賠償金九四万八八〇八円及び第三の二2(二)の慰謝料五〇万円の合計額である。また、右昭和六一年七月三日は原告D原が二回に分けて交付した金員の後者の分を交付した日であり、右平成四年八月一七日は同原告がB原を退職した日である。)

(二) 被告E原及び同A川に対し連帯して一四四万八八〇八円及びこれに対する平成四年八月一七日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分((一)の被告D川に対する部分と連帯)

(右一四四万八八〇八円は第三の二2(三)で引用する同(一)(4)の未払給与に係る損害賠償金九四万八八〇八円及び同(二)の慰謝料五〇万円の合計額であり、右平成四年八月一七日は原告D原がB原を退職した日である。)

5  原告E田が

(一) 被告D川に対し九〇九万四〇〇〇円及びうち一二九万二〇〇〇円に対する昭和五九年一〇月二九日から、うち五一七万円に対する平成四年八月二七日から、うち二六三万二〇〇〇円に対する平成四年一〇月三一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分

(右九〇九万四〇〇〇円は、第三の一7(二)(1)の預り金名目の交付金一二九万二〇〇〇円、同(三)の貸金名目の交付金二二六万円、同(四)の貸金名目の一二一万円、同一七〇万円、同(五)の金銭交付に係る慰謝料五〇万円、第三の二3(一)(2)の未払給与から補填済分を控除した一六三万二〇〇〇円及び同(二)の右未払給与に係る慰謝料五〇万円の合計額である。右昭和五九年一〇月二九日は当該金額を交付した日として争いがない日であり、右平成四年八月二七日は複数回に分けて当該金額を交付した分の最後の金額を交付した日であり、右平成四年一〇月三一日は原告E田の退職日よりも後の日である。)

(二) 被告A川に対し二一三万二〇〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月三一日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分((一)の被告D川に対する部分と連帯)

(右二一三万二〇〇〇円は、第三の二3(三)の未払給与から補填済分を控除した一六三万二〇〇〇円及び同(三)の慰謝料五〇万円の合計額である。また、右平成四年一〇月三一日は原告E田の退職日よりも後の日である。)

(三) 被告E原に対し五八〇万二〇〇〇円及びうち三四七万円に対する平成四年八月二七日から、うち二三三万二〇〇〇円に対する平成四年一〇月三一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分((一)の被告D川に対する部分と連帯)

(右五八〇万二〇〇〇円は、第三の一7(三)(2)の貸金名目の交付金二二六万円、同(四)(2)の貸金名目の交付金のうち一二一万円、同(五)の金銭交付に係る慰謝料二〇万円、同三の二3(三)の未払給与から補填済分を控除した一六三万二〇〇〇円及び右未払給与に係る慰謝料五〇万円の合計額である。右平成四年八月二七日は金員を交付した最後の日よりも後の日であり、右平成四年一〇月三一日は原告E田の退職日よりも後の日である。)

6  原告A田が

(一) 被告D川に対し五九七万四七九八円及びうち一四二万円に対する昭和六〇年三月二五日から、うち二〇八万五〇〇〇円に対する平成四年八月三一日から、うち二四六万九七九八円につき平成四年一〇月二一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員の支払を求める部分

(右五九七万四七九八円は、第三の一8(二)の預託金名目の交付金一四二万円、同(四)(1)の貸金名目の交付金のうち二〇八万五〇〇〇円、同(五)の金銭交付に係る慰謝料三〇万円、同三の二4(一)の未払給与から補填済分を控除した一八六万九七九八円及び同(二)の未払給与に係る慰謝料三〇万円の合計額である。右昭和六〇年三月二五日は一四二万円を原告A田が交付した日であり、右平成四年八月三一日は複数回に分けて当該金額を交付した分の最後の金額を交付した日であり、右平成四年一〇月二一日は原告A田の退職日である。)

(二) 被告A川に対し四五五万四七九八円及びうち二〇八万五〇〇〇円に対する平成四年八月三一日から、うち二四六万九七九八円に対する平成四年一〇月二一日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員の支払を求める部分((一)の被告D川に対する部分と連帯)

(右四五五万四七九八円は、第三の一8(四)(1)の貸金名目の交付金二〇八万五〇〇〇円及び同(五)の金銭交付に係る慰謝料三〇万円、同三の二4(一)の未払給与から補填済分を控除した一八六万九七九八円及び同(二)の未払給与に係る慰謝料三〇万円の合計額である。平成四年八月三一日は二〇八万五〇〇〇円について最後に支払のあった日であり、右平成四年一〇月二一日は原告A田の退職日である。)

(三) 被告E原に対し二一六万九七九八円及びこれに対する平成四年一〇月二一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員の支払を求める部分((一)の被告D川に対する部分と連帯)

(右二一六万九七九八円は、同三の二4(一)の未払給与から補填済分を控除した一八六万九七九八円及び同(二)の未払給与に係る慰謝料三〇万円の合計額である。また、右平成四年一〇月二一日は原告A田の退職日である。)

7  原告B野が被告D川に対し三〇二二万七一六八円及びうち一八三万七一六八円に対する昭和六三年一二月二八日から、うち一八〇〇万円に対する平成元年四月二七日から、うち一〇三九万円に対する平成四年三月二〇日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員の支払を求める部分

(右三〇二二万七一六八円は、第三の一9(一)(2)ロの交付金残額である一八〇〇万円、同(3)ニの交付金残額である一八三万七一六八円、同(4)ハの交付金残額である一〇三九万円の合計額である。また、右昭和六三年一二月二八日はミニスクールの出資金について最後に支払のあった日であり、平成元年四月二七日は預り金名目の交付金について最後に支払のあった日であり、平成四年三月二〇日はゴルフ場改修資金名目の交付金について最後に被告D川から支払があった日である。)

8  原告C山が被告D川に対し一二五八万六九一〇円及びうち一六五万三四〇七円に対する昭和五七年二月九日から、うち八四三万一三四七円に対する平成元年一二月一四日から、うち二五〇万二一五六円に対する平成四年八月一七日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員の支払を求める部分

(右一二五八万六九一〇円は、第三の一10(一)(4)の預り金名目の交付金である一六五万三四〇七円、同(5)のコミッションの無断引出しに係る金額である八四三万一三四七円、同二5(一)の未払給与から補填済分を控除した二三〇万二一五六円及び同(二)の未払給与に係る慰謝料二〇万円の合計額である。また、右昭和五七年二月九日は原告C山が最後に金員を直接交付した日であり、平成元年一二月一四日は最後の入金日であり、平成四年八月一七日は原告C山の退職日である。)

そこで、右の部分を認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六一条、六四条、六五条一項を適用して、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 弘中聡浩)

〈以下省略〉

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